米市民「被爆者の受賞?知らなかった」原爆投下国、平和賞への関心薄く 根強い「戦争終わらせた」”神話”
日本原水爆被害者団体協議会(被団協)のノーベル平和賞受賞について、原爆投下国の米国の関心は低い。米国内で原爆展を開き被害の実態を伝えてきたアメリカン大のピーター・カズニック教授(76)は、被爆者とともに授賞式に出席し、核軍縮を願うノルウェーと母国との温度差を感じた。トランプ次期大統領による軍拡を懸念しつつ、米国世論の変化を注視している。(オスロ坪井映里香、ワシントン古川幸太郎) 【写真】長崎市の平和祈念館で被爆体験に耳を傾ける米国の学生たち 授賞式があった10日、米国内でメディアの報道は少なかった。首都ワシントンの飲食店にいたジューン・キャッシュさん(68)は「被爆者の受賞? 知らなかった」。仕事で長崎を訪れたことがあるというマイケルさん(73)は「戦争を終わらせた原爆は、今も被爆者を苦しめている」と複雑な思いを口にした。 ノルウェー・ノーベル研究所によると、授賞式には日本から120人の報道陣が訪れたのに対し、米メディアは「ごく少数」。もともと米国内ではノーベル賞への関心が低く、カズニックさんは「オバマ元大統領の平和賞受賞も広く知られなかった。もっと多くの情報に触れてほしいのだが」と残念がった。 2002年、広島に原爆を投下したB29爆撃機「エノラ・ゲイ」の米国内での展示の在り方を巡り、被団協の田中熙巳(てるみ)代表委員(92)と運動を共にした。その縁で授賞式に誘われた。「被爆者の運動が認められ喜ばしいが、遅かった。友達の多くは既に亡くなった」 カズニックさんが米国で初めて原爆展を開いたのは1995年。国立スミソニアン博物館で企画されていた展示が、退役軍人らの反対で頓挫したのが発端だった。原爆が早期に戦争を終わらせ両国民の命を救ったという「原爆神話論」が社会に根付いていたからだ。 太平洋戦争で指揮を執った米軍幹部の多くが「原爆投下は不要だった」と戦後に証言しているとして、「神話論は既に否定されているのに、今も学校では正しかったと学ぶ。変えなければならない」と強調する。 一方で、米国の若者の間で核兵器への関心は高まっているという。原爆開発を率いた科学者を描いた映画「オッペンハイマー」のヒットもあるが、カズニックさんは、現在の国際情勢への恐れや不安が要因だと指摘する。「核の問題は、気候変動と並んで人類を脅かしている。その事実が若い世代の関心を引いている」 今年3月の世論調査では、米国人の49%が「核なき世界」に賛同し、63%が「核保有で世界は危険になっている」と回答。一方、米国の核廃絶は「他国が全て放棄する場合のみ賛成」が56%で、「無条件での廃絶」は11%にとどまった。 過去に「核兵器を持つのになぜ使えないのか?」と発言したトランプ次期大統領は「核抑止の強化」を掲げるとみられる。核戦力の増強を求める提言が周囲から相次ぎ「トランプ政権は確実に核実験の再開を推進する」との見方も広がる。 被団協の平和賞受賞はこうした動きを止められるのか。カズニックさんはトランプ氏周辺に被団協との面会を働きかけており、直接対話に期待している。 「核の脅威が非常に深刻な中、被爆者の言葉は世界へのメッセージだ。私たちは被団協から学ぶべきことがたくさんある」