【海外トピックス】フォルクスワーゲン、ドイツ工場閉鎖を検討のインパクト
工場閉鎖は計算された「脅し」?
ブルーメCEOがひと月前の決算発表では、追加コスト削減に触れなかったのは、まだ工場閉鎖について従業員協議会への話が済んでいなかったからでしょう。そして、当然この話は従業員代表にとっては驚きだったはずです。苦戦しているとはいえ、2024年も売上高は微増、利益は前年(225億ユーロ)並みを上げる見込みで、CEOが経営状態は「ステーブル(安定している)」と言っているわけですから。 今回の件は、まずヴォルフスブル近郊でVW幹部社員への説明後にステートメントが発表され、2日後に本社工場で従業員への説明集会となりましたが、本社工場従業員7万人の3分の1以上の参加にはさすがにVW経営陣も驚いたことでしょう。ただ一部アナリストには、経営側は派手に危機感を演出することで、今秋の賃金交渉(IGメタルは7%の賃上げ要求)や一人あたり最大45万ユーロともいわれる早期退職手当など労務費で譲歩を引き出す目論見という穿った見方もあるようです。 確かに本気で工場閉鎖をするなら、どの工場かを特定し、そこに絞って組合と交渉する方が現実的であり、ニュースの波及も限定的になるはずです。従業員への説明も、その特定の工場で行えば良いことです。従来から存続が危ぶまれていたのが、カルマン・ギアやゴルフカブリオレなどの少量生産モデルで歴史のあるオスナブルック工場や、かつてVWの最高級サルーン「フェートン」を組み立てたドレスデンの「ガラスの工場」などですが、それらは「大規模工場」とはいえません。今回閉鎖対象の工場を名指ししなかったのは、工場閉鎖まではできなくても、危機感を広く共有することで賃上げ交渉やコスト削減で一層協力を得たいと経営陣が考えているという見方はあながち的外れではないかも知れません。 しかし現状見る限り、労使協議会やドイツ最大の労働組合IGメタルが徹底抗戦の狼煙をあげ、「信頼関係が著しく毀損した」としてストライキも辞さないとの姿勢を見せている以上、経営側の置かれた状況は厳しいと言わざるを得ません。5日にザクセン州のツヴィッカウ工場で行われた説明会でも多くの従業員が「雇用保証!」などと記したバナーを掲げて参加しています。昨秋米国でUAW(全米自動車労組)が国内の労働者全般からの支持を背景に4年間で25%以上の賃上げや雇用維持を担保したように、低迷するドイツ経済の下で不安を抱える労働者層の連体に繋がる可能性があるからです。