虐待疑いの親の面会制限、法的根拠なく現場は苦慮…防止法改正で明文化へ
こども家庭庁は、児童相談所に一時保護された子どもについて、虐待と認定される前の疑い段階でも、保護者の面会や電話を制限できるよう、児童虐待防止法を改正する方針を固めた。制限は現在、強制力のない「指導」として行われており、保護者とトラブルになる例が相次いでいる。同庁は来年の通常国会で同法改正案の提出を目指す。 【表】児童虐待防止法に基づく面会通信制限
児相は、虐待を受けた疑いがある18歳未満の子どもを一時保護できる。虐待かどうかは児童福祉司や医師らによる週1回程度の会議などで判断される。虐待と認定されれば、同法に基づき、面会や電話などの通信を制限できる。
ただ、認定の前でも、親との接触で子どもの精神が不安定になったり、暴力を振るわれたりする恐れがあると児相が判断すれば、児童福祉法に基づく指導として、面会や通信を制限しているケースは多い。
指導は任意を前提としているが、保護者の意向に反して制限したことで児相側が各地で提訴されている。娘との面会を制限された母親が起こした訴訟で、昨秋に確定した大阪高裁判決は「事実上の強制による面会制限は、法令上の根拠がなく違法」と指摘した。
現場では保護者に制限の根拠を説明する際、苦慮しており、児童虐待防止法への明文化を求める声が上がった。このため、こども家庭庁の審議会で議論が進められており、同庁は今月26日の部会で改正案を示す。
改正案では、疑い段階でも「児童の心身に有害な影響を及ぼす恐れが大きいと認める時」は、児相の判断で制限できるようにすると明示する方針。保護者が暴力を振るう可能性があったり、子どもが激しくおびえたりする場合を想定している。子どもが面会を望むかといった意向も重視する。
2022年度に全国の児相が対応した児童虐待件数は過去最多の約21万件、一時保護は約3万件だった。
児童虐待に詳しい相沢仁・山梨県立大特任教授は「法改正後も児相は保護者との接触で引き起こされる子どもの不利益を見定め、本人の意思もくみ取った上で適切に運用していく必要がある」と指摘する。