国連、日本アニメは「労働搾取」 ネットフリックスなどから排除も
製作委員会に功罪
一方で、製作委員会には負の側面もある。アニメ制作スタジオなどで働くアニメーターなどの制作現場に利益が配分されにくいことだ。アニメ制作スタジオは、製作委員会から発注を受け、その下に2次・3次の制作スタジオやフリーランスのアニメーターなどが連なる構造になっている。アニメ制作スタジオは中小の零細が多く、数億円の一部を出資する余裕がない。そのため、製作委員会から提示された金額で次々と仕事を請け負うことで経営を成り立たせる状況が続いている。 業界関係者は、「力関係や資金力が弱いアニメ制作スタジオが製作委員会メンバーに入り込むのは無理」と打ち明ける。また、「動画作業の制作単価は1枚当たり250円程度で、この単価は10年以上変わっていない」と訴える。月に300枚描いたとしても収入は7万5000円程度であり、動画作業の収入だけでは月10万円も稼げない。 アニメ制作スタジオの賃上げ余力は乏しい。日本総合研究所の調べでは、1990年代中ごろ以降に設立されたアニメ制作スタジオ7社の労働分配率(人件費÷付加価値額)は平均88%だった。日本の中小企業の平均は81%で、大・中堅企業の平均は58%である。アニメ制作スタジオは人件費の支払いでいっぱいいっぱいで、こうした状況で賃上げを急げばさらに収益が圧迫され、アニメ制作スタジオの倒産につながる。 低賃金や過重労働といった問題は、アニメ制作現場から人材を流出させ、技術力の低下につながっていく。2000年代に国内で年間約100本だったアニメ制作本数は、今は300本を超えている。経験が乏しいアニメーターが増加傾向にある中、中堅・ベテラン層による修正負担が増しており、少ない人手で品質を維持するのが精いっぱいの状況だ。増えていく需要を満たすどころか、このままでは日本アニメ産業の衰退につながりかねない。 アニメ作品のキャラクターなどを活用したグッズ販売などを展開するための知的財産権も製作委員会のメンバーが共同保有するケースが一般的である。製作委員会に入っていないアニメ制作スタジオは、作品を作った後に収益が上がっても、その恩恵に預かれない。 ●成長と衰退の分岐点 アニメビジネスに詳しい日本総合研究所の安井洋輔主任研究員は、「アニメ制作スタジオの自助努力だけでは現状を打開できないほど業界慣習が強固。政府による介入が求められる状況にある」と指摘する。三村小松法律事務所の田邉幸太郎弁護士は、「政府の協議会などを通じて業界の実態や課題を共有し、具体的な改善策に落とし込んでいくことが重要。業界を挙げて取り組む姿勢を示していく必要もある」と話す。 日本アニメ産業の持続的な成長には、作り手である制作現場の持続可能性の考慮が不可欠だ。アニメにかかわらず、作り手による労働が「搾取」と見なされた商品は、世界のサプライチェーンからはじき出される。成長か衰退か─。日本のアニメ産業は今、その分岐点にいる。 (「日経ESG」2024年11月号の記事を基に構成)
半澤 智