ハーレーダビッドソンが熱いファンを作る仕組み 直営販売店がなくても顧客との関係性を構築
実は、身の回りにあるモノやサービスはマーケティングで解き明かすことができます。何気なく飲んでいるコーヒーも、手に持っているスマートフォンも、乗っているオートバイや車も、これから食べるご飯もそうです。気がついていないだけで、私たちの日常はマーケティングによってできています。 そんな身近なマーケティングのあれこれについて、キッコーマンの元役員、そしてマーケターの三宅宏さんの書籍『世界はマーケティングでできている』より一部抜粋・再構成してハーレーダビッドソンを題材に「関係性マーケティング」について解説します。
■ハーレーの何がそこまでファンを引きつけるのか 沖縄に移住している私の大先輩がいます。沖縄に出張すると必ずご一緒してお話を伺うのですが、コロナ前にお会いしたとき、「三宅、いま大型のバイクの免許を取るために教習所に通っているのだよ。だから毎日筋トレをしているのだ」と嬉しそうに笑っていました。私はポカンとしました。先輩は齢70になろうとしているからです。 その後お会いすると1枚の写真をポケットからニタニタしながら出して見せてくれました。その写真には大型のハーレーダビッドソンに乗った先輩とツーリング仲間が一緒に写っていました。年に何回かハーレーダビッドソン愛好家と一緒に隊列を組んで、ゆっくり堂々と走る王者のツーリングが何よりも楽しいと本当に嬉しそうでした。
ハーレーの何がそこまでファンを引きつけるのかについて触れてみたいと思います。ハーレーダビッドソンの誕生は、1903年のウィスコンシン州ミルウォーキー。好奇心に富む3人の若者が自転車のフレームにバイクのエンジンを組み込めないかと考えた冒険からでした。心臓部を作ったウィリアム・S・ハーレー(William Sylvester Harley)とダビッドソン兄弟の名前をとってハーレーダビッドソンとなりました。
1950年から1960年代に戦後英国製バイクやその後の日本のバイクが台頭してきます。生き残るため巨大資本AMFの傘下に入ります。1969年ピーター・フォンダ主演の伝説の映画「イージー・ライダー」によってハーレーに乗って米国を横断していく姿は、多くの若者の心をつかみました。 資本力にものをいわせ大きな設備投資をし、生産台数が一挙に5倍近くになります。しかし全体的な品質面が低下し、ユーザー離れと利益の低下をもたらします。過剰生産が今まで築いてきたブランド資産を棄却したのでした。お荷物になったハーレーの売却をAMFは目論みますが、落ち目になったハーレーを買う企業は現れず、ハーレーを愛する13人の経営陣が借金をして買い戻します。