岡村靖幸の最新対談集はコロナ禍のドキュメント、異色ゲストとの対話で思う「幸福への道」とは
「週刊文春WOMAN」の対談連載を書籍化した「幸福への道」を上梓した岡村靖幸が、音楽ナタリーの取材に応じた。 【写真】ライブで華麗にポーズを決める岡村靖幸 「幸福への道」は岡村がさまざまなジャンルの著名人をゲストに「あなたにとって幸福とは何ですか?」と問う連載。過去にも「TV Bros.」の連載「あの娘と、遅刻と、勉強と」や「GINZA」の連載「結婚への道」などで対談を行ってきた岡村だが、同業のアーティストをはじめとするエンタメ業界の人々との対談が多かったこれまでと比べ、「幸福への道」では台湾の政治家オードリー・タンや報道カメラマンの宮嶋茂樹、日本文学者のロバート・キャンベル、僧侶のネルケ無方といった毛色の異なるゲストも数多く相手に迎えて興味深いトークを繰り広げている。 ■ 対談の名手・岡村靖幸のこだわりと聞き出し術 対談という形式を取りながら、岡村がゲストの懐に入り込み、深い言葉を引き出しているのが本書の特徴の1つ。そんな聞き手としての手腕について、岡村は「それは長いことやっているからでしょうね」と謙遜しながらも「ゲストとなんとなく話すんじゃなく、対談相手の下調べはすごくします。編集部から膨大な資料が送られてくるから事前の予習がしやすいんです。連載していた『週刊文春Woman』は季刊誌なので、次の取材では何を聞こうと考える時間がたっぷりあったのも大きかった」と対談に挑む際の心構えを話してくれた。複数の対談連載を持つ彼が、対談の際に心がけていることは「まず読んでいる人が興味を持つかどうか」。岡村は「僕に興味がない人でも、対談相手の話が面白いと思ってもらえるようにがんばらなくちゃ、と思っていますね。僕の名前が入った本だけど、僕のファンじゃない人がバンバン買ってくれるよう、対談の内容を豊かにしなくちゃいけない」と言い、さらに「あとは、当たり障りのない会話じゃなく、いかに相手の懐に入り込んだ対談にするかは意識しています。毎回うまくいくわけではないですけど」と付け加えた。 ■ 異業種ゲストとの対話 「特に印象に残っている対談相手は?」と問うと、岡村はオードリー・タンの名を挙げ、「台湾は世界でもいち早くコロナウイルスの拡散を抑えた国で、そこに大きく貢献したのがIT大臣のオードリー・タンさんだった。コロナ禍真っ只中の頃に、タンさんに『今後コロナ禍はどうなっていきますかね』『芸能・エンタメの世界はこれからどうしていけばいいでしょう』という質問ができたのはとてもよかったと思います」と回答。また、映画「MINAMATA-ミナマタ-」でジョニー・デップが演じた主人公の妻・アイリーンの実在するモデルである環境活動家のアイリーン・美緒子・スミスについて「水俣病は僕が子供の頃に教科書に出てきたような問題だから、遠い昔の出来事のように思っていたんです。でもアイリーンさんはすごく若々しい方で、実際はすごく身近な出来事だったんだとわかった」と話し、「歳を取ると勉強する機会がなくなってくるけど、対談の連載をしていると、その人がどういう人生を歩んできたか、その時代背景にはどんなことがあったのか……と強制的に勉強させられるんですよ。今は2誌で連載しているので、定期的に勉強をする機会が巡ってくる。それはすごくありがたいことだなと思いますね」と対談連載がもたらす充実ぶりを明かした。 ■ コロナ禍と幸福 「幸福への道」の連載がスタートしたのは2019年。世界はその後コロナ禍に突入し、連載のゲストも時代を反映した人選となっていく。料理研究家の土井善晴をゲストに迎えたのは岡村自身の発案だそうで、岡村は「コロナがどういう病気かわからないし、我々ができることはワクチン以外だと自己免疫を上げることくらいで。自己免疫能力を上げるためにはどういうものを食べて、どういうことに留意すべきかを考えていたとき、土井さんの『一汁一菜』についての言葉に感銘を受けたんです。味噌、お味噌汁は免疫力という意味では最強の食べ物であると。コロナ禍について食事の面から話を聞きたくて」とその理由を明かす。 「けっこうな不安でしたよね。いつ治まるというシナリオもなかったし、ワクチンを何回打てば安心して海外旅行なんかに行けるようになるかもわからなかった。緊急事態宣言がいつ解除されるのか、第2波、第3波とどこまで続くのか。いろんな情報が錯綜している中で、エンタメはできなくなりましたからね。エンタメだけじゃなく、ひどいときは飲食店もやってなかったし。この本は、そんなひどい時代のドキュメントにもなっているんですよ」と、書籍としてまとめられたこの連載について振り返った岡村。およそ6年の連載を経て、2024年12月現在に彼が考える「幸福とは?」の結論を問うと、「十人十色だと思いますけどね。僕は何につけても健康であることが大事だと思います。コロナ禍でそれは痛感させられたし、あの時期にみんなの人生観もちょっと変わったと思うんですよ。健康でさえあれば、瑣末なことにも幸せを感じられるけど、健康でないと足元のことも見えなくなる。夕焼けがきれいなことにも気付かないとか。若い頃は『健康が大事』なんて言われても、全然理解できなかったですけどね」という答えが返ってきた。 ■ 岡村靖幸「幸福への道」対談ゲスト一覧 神田伯山(講談師) / 千原ジュニア(芸人) / 伊藤蘭(俳優・歌手) / 能町みね子(エッセイスト) / 川谷絵音(ミュージシャン) / 小林麻美(モデル・俳優・歌手) / オードリー・タン(台湾の政治家) / 高村薫(小説家) / 土井善晴(料理研究家) / ロバート・キャンベル(日本文学者) / アイリーン・美緒子・スミス(環境活動家) / 田中泯(ダンサー) / スパークス(ミュージシャン) / 宮嶋茂樹(報道カメラマン) / 村田沙耶香(作家) / ネルケ無方(僧侶) / ショーン・レノン(ミュージシャン) / 吉川晃司(歌手・俳優) / よしながふみ(漫画家) / 斉藤和義(ミュージシャン) / 鈴木おさむ(元放送作家) / 立川談春(落語家) ※高村薫の「高」ははしご高が正式表記。