モテたい、食べたい、遊びたい、うまいコピーは人間の欲をさりげなくくすぐる
AIの台頭でなくなるかもしれない仕事として挙げられるコピーライター。BMW、KDDI、富士フイルムなどを担当し、40年にわたりコピーライターとして活動してきた中村ブラウン氏が初めてChatGPTを使ってみた感想は「ふざけるなよ!」という憤りだった。 【実際の画像】昔からビールのポスターは女性がモデル。写真は109年前のサクラビールのポスター 広告・宣伝、特にコピーライティングを考えるときに最も重要かつ時間と労力をかける「ターゲット分析」を、ChatGPTがものの数分で的確に行ったことへのショックもあった。だが、使いこなすにつれて「まだChatGPT ができていない点」にも気づかされたという。ChatGPTがたどり着けない「人の心を動かす」コピーワークを生み出す手法とは何か。(JBpress編集部) ※この記事は、中村ブラウン氏の『ChatGPT 売れる文章術』(三笠書房)を一部抜粋・編集したものです。 ■ コピーライティングの金字塔 (中村ブラウン:広告クリエイター) マーケティングの世界では、「人間の8つの欲求」を刺激すると効果的だと言われています。 8つの欲求とは、「人生を楽しみたい」「おいしいものを食べたい」「恐怖、痛み、危険から逃れたい」「性的快感を味わいたい」「快適に暮らしたい」「他人に勝りたい」「愛する人を守りたい」「社会的に認められたい」というもの。確かに、どれも「人間の根源的な欲求」を表していると思います。 今回の「8つの欲求」をカテゴリーに入れるべきか悩みました。なぜなら、この「8つの欲求」からキャッチコピーをひねり出すのは、私の経験上、ちょっと難しいからです。ただ、知っておいて損のない考え方です。 「このキャッチコピーは8つの欲求を満たしているから効果がありそうだ」という、いわば目安なり尺度になればと思い、紹介することにします 【人生を楽しみたい】 例:「一瞬も一生も美しく」 資生堂のスローガンとして有名ですね。背景にあるのはアンチエイジングではないでしょうか。言葉そのものがみずみずしくて美しい。まさに「人生を楽しみたい」という欲求を満たす好例のキャッチコピーだと思います。 ただ、冒頭で述べたように、「人生を楽しみたい」という出発点から、このキャッチコピーにたどり着くのはかなり難しいと考えます。 【おいしいものを食べたい】 例:「おいしい生活」 テレビのバラエティ番組で手堅いと言われる企画の一つに「グルメもの」があります。グルメものは一定数の視聴率を稼げるからです。逆に言えば、万人は、「おいしいものを食べたい」という欲求を持っていることになります。 「おいしい生活」は糸井重里さんが西武百貨店のために作った、いわばコピーライティングの金字塔ともいえるキャッチコピーです。 当時は「おいしい」という形容詞は食べ物だけに使われていたと思いますが、現在では日常会話の中でも、「その仕事、おいしいよね」というように「得をしている」「嬉しい気分になる」という意味にも変わっています。