“エコ”か“エゴ”か 新型デミオ1.5ディーゼルが実現した「ドライバーが主役」
試乗会ジムカーナコースでの走りは?
今回の試乗コースは東京・晴海の大きな駐車場に作られた特設ジムカーナコースだ。低速コーナーと短い直線のみで構成された最高速時速100キロ以下のコースだ。公道上ではあり得ない乱暴な運転項目をテストできる一方で、テストできる項目は限られている。コースを用意したマツダの意図を汲めば、タイヤを鳴らして走るような領域で元気よく走れることを試して欲しいということだろう。裏返せばそういう走りに自信があるとも言える。 運転席の環境は「ペダルオフセットにこだわった」とマツダが言う通り良好だ。アクセルペダルはオルガン式で、踏み込むとペダル面が靴底と滑りながら逃げて行く吊り下げ式よりコントロールし易い。マツダのコダワリが感じられる部分である。 ステアリングは首振り機構のチルトと伸び縮み機構のテレスコピックがともに装備されていて、その調整幅も大きいので、体格の違いはかなり飲み込めるだろう。先週の記事で詳細を書いた通り、コストを掛けたフロントシートのメリットは大きく、運転環境は良好だ。 エンジンを始動すると、その音は「ガソリンと違わない」ほどでは流石になく、やはりディーゼル特有の音がするが、しかし昔のディーゼルを知るものからすると、率直に「こんなに静かになったんだ」と思わされる。音質自体が好みでなければともかく、騒音が理由で購入意欲が削がれるものではない。
クルマの「主役」は誰だ?
ギアセレクターを動かして発進する。オートマチックはこれまでのCVT(一部車種はトルコン4段)ではなく、全モデルがトルコン式の6段になった。稼働時間の90%でロックアップが働くとのことだから、発進と変速の瞬間以外トルコンのスリップは発生しない。これは燃費の向上に大きく寄与しているはずである。 変速機のチョイスは、ドライバーズカーとしては重要なポイントの一つだ。運転者がアクセルを一定に保っていても、勝手にスルスルと変速比を変えて加減速してしまうCVTは、究極的に言えばドライバーの命令より、燃費が優先されているシステム。つまりクルマが「エコというエゴ(自我)」を持っており「速度を増減させる権限がある」という意味でそのエゴはドライバーの命令より上位にある。 低燃費技術は進歩するべきだと思うが、それがドライバーより上位にあることは、ドライバーがクルマの全てを掌握するという世界観と対立し、その是非には議論の余地がある。エゴシステムを是とするか非とするかはドライバーの価値観によるだろう。「できればクルマに全部をやってもらいたい」タイプなら肯定するだろうし「ドライバーが主役」とするならば否定するだろう。ちなみにマツダは今後の方針としてCVTは使わない方向へシフトするとのことで、そういうメーカーが出てくるのは喜ばしいニュースだと思う。 1.5ディーゼルは、発進から力があり、男性4名の乗車でも予想外の加速力を発揮する。エンジン回転のリミットは5200rpmとディーゼルとしては異例に高く、高回転でもパワーの落ち込みは少ない。トランスミッションとの相性もよい。というよりエンジン特性があまり相性を問わないと言った方が正確だろう。 昨今の欧州製ディーゼルに見られるトルクの化け物のようなグイグイ感を期待すると物足りないかもしれないが、少なくともBセグメントでは、かつて体験したことのないトルク感は味わえる。ディーゼルというよりも、排気量の大きなガソリンエンジンに近い力強さを感じる。