樋口恵子「90歳で補聴器デビュー。小さくて上下が分からず、1年間は入れ間違えてばかり…。年齢を重ねると何かと物入りだ」
NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」理事長の樋口恵子さんによる『婦人公論』の新連載「老いの実況中継」。91歳、徒然なるままに「今」を綴ります。第10回は、【私たちは生涯 一消費者 】です──。(構成=篠藤ゆり イラスト=マツモトヨーコ) * * * * * * * ◆高齢社会ならではの現象 90歳のとき、ついに補聴器をつくりました。目が見えにくくなると、見えないという自覚症状がありますが、聴覚の場合、聞こえない音は、「なかったこと」になりがち。ですから、意外と気がつきにくいのでしょう。実際はもっと以前から、耳が遠くなっていたのかもしれません。 そういえば時々、娘の声が聞き取りにくいとは感じていました。ぼそぼそと低い声だからだと思っていましたが、私の耳の問題だったようです(娘よ、申し訳ない)。仕事を手伝ってくれている助手からは、「娘さんの小言は聞きたくないという心理が働いて、耳に蓋をしているんじゃないですか?」とからかわれましたが――。 補聴器を使い始めて1年。「ご感想は?」と聞かれると、「いやぁ、不便なものですね」としか言いようがありません。そもそも耳の穴に入れるものですから、サイズがかなり小さく、どちらが上でどちらが下かがわかりにくい。使い始めた頃は、しょっちゅう入れ間違えていましたが、1年たってようやく慣れました。新しいことを覚えるのに時間がかかるようになるのも、“老い”の定めなのでしょう。 ご同輩からは、「老眼なので、補聴器の小さな電池を入れ替えるのが難しい」「入れ替えようと思って床に落としてしまい、どうしても見つからない」といった話もよく聞きます。 そこで最新の充電式の補聴器にしたのですが、これがどうして、けっこうなお値段です。私は歯にはそれほどお金を使わずにすんでいますが、入れ歯が高額で大変、という嘆きも聞こえてきます。年齢を重ねると、何かと物入りだ、とあらためて実感しました。 自力での排泄が困難な方の場合、紙おむつ代もバカになりません。もっともこちらは、「要介護3」以上や、医師の判断で日常的におむつの使用が認められた場合は、給付・助成制度の対象になることもあります。ただし、いわゆる尿もれパッド類は対象外です(尿取りパッドを助成対象とする自治体はあり)。そういえば生理用品やおむつの大手メーカーが、2013年3月期を境に、赤ちゃん用の紙おむつと高齢者用の紙おむつの売り上げが逆転したというデータを出していました。高齢社会ならではの現象でしょう。
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