能登半島地震、津波は短時間で到達 東日本大震災の教訓は生かされたのか?
当時の津波避難は? 東日本大震災の教訓は生かされていたのか?
当時の津波からの避難状況はどうだったのか? まず、「津波防災地域づくりに関する法律(津波防災地域づくり法)」が東日本大震災の直後に制定され、各都道府県では最悪シナリオによる津波ハザードマップが策定されていった。石川県では2012年3月に見直し作業が行われ、各地域に配布されていた。 住民からの証言によると、能登半島の多くの地域では、東日本大震災の経験に基づく避難訓練がなされ、迅速な行動が取られていたようである。地震から津波の想起や、避難の呼びかけに教訓が生きていたと思われる。 一方で、半島以外での地域では、東日本大震災を契機に避難訓練を実施していたが、継続につながらなかった事例もあり、避難時に混乱もあったようである。さらに、車を使った避難により渋滞が発生したり、緊急津波避難場所が開放されていなかったりするなど、課題点も指摘されている。
避難の在り方 「揺れたらすぐに避難」
では、限られた時間の中でどのような避難をするべきなのか。気象庁が注意報や警報を出す目安は発生から3分だ。早いところだとその3分以内に津波が到達する可能性がある。日本海側の多くの断層の幅、長さなどから浸水域は太平洋側と比べ比較的限られることも多い。揺れたらすぐに避難することを徹底してほしい。作業や釣り、サーフィン、海水浴などで沿岸部にいる方は、強い揺れを感じたらまずは沿岸部からは離れていただきたい。加えて河口や河川に沿ったエリアも津波の到達が非常に早いので、そこからも離れていただきたい。今後も南海トラフを中心に地震および津波が発生する可能性は高い。その際に、今回の複合災害の実態を理解し、経験と教訓を生かして今後の事前防災を充実させ、避難意識を向上させなければならない。過去の悲劇を繰り返さないことこそ、東日本大震災の教訓であり日本の防災文化の原点である。 今回の地震において津波が発生したが、津波浸水想定を踏まえたハザードマップの公表、東日本大震災など、これまでの我が国における災害経験を踏まえた住民の避難訓練の実施が、被害の最小化に寄与したと考える。一方で、新潟の液状化被害は、過去に液状化したところで発生しており、過去のデータの蓄積から、これからの被害発生リスクを予測することの大切さが改めて示された。これらを含め、これまでの災害経験と教訓を伝承し、あらゆる関係者が情報発信していくことが重要であり、それらに活用し得る情報・データを集約し、伝承していくアーカイブの構築などが求められる。
【Profile】
今村 文彦 東北大学災害科学国際研究所教授。東北大学大学院工学研究科博士後期課程修了。同大学院附属災害制御研究センター助教授、同教授を経て、2014年より2023年まで災害科学国際研究所所長。主な専門分野は津波工学(津波防災・減災技術開発)および自然災害科学。東日本大震災復興構想会議検討部会、中央防災会議専門調査会などのメンバーを歴任。現在、復興庁復興推進委員会委員長、一般財団法人3.11伝承ロード推進機構代表理事、土木学会副会長などを務める。