映画『クラブゼロ』今の時代に「食べること」は世界にとって有害なのか?【シネマナビ】
一年365日、映画&ドラマざんまいの今 祥枝が、おすすめの最新映画をピックアップ! 今回は、演技派ミア・ワシコウスカが主演を務めた映画『クラブゼロ』をレビュー。 今祥枝さんのおすすめ映画(画像) ◇ナビゲーター 今 祥枝 映画&ドラマざんまいのライター。年内最後の出張は今年2度目のシンガポールでディズニー主催のイベントへ。
『クラブゼロ』 今の時代に「食べること」は世界にとって有害なのか?
多くの人は、健康的な心や体について考えたことがあるはず。まず、見直したいのは食生活だろう。なるべくヘルシーなものをと思うとき、オーガニックの野菜を中心とした食事が思い浮かぶ。続けて、それでは肉を食べることはどうか、野菜を栽培する環境はどうなのか、フードロスも気になる……と考えを進めていくと、必然的に環境汚染や気候変動から世界の貧困問題、戦争や紛争などに思いが至る。 こうした極めて正しく、ある種の不器用なまでにまっすぐな問題との向き合い方は、多感なティーンエイジャーの特権でもあるだろう。しかし、その純粋さには危うさがある。『クラブゼロ』の主人公で、名門校に赴任してきた優秀で熱心な栄養学の教師ノヴァク(ミア・ワシコウスカ)は、そうした子どもたちの心のすき間にすっと入り込む。 ノヴァクはまず、「意識的な食事/conscious eating」という「少食は健康的であり、社会の束縛から自分を解放することができる」食事法を生徒たちに説く。飽食の時代にあって、必要な哲学であるようにも感じられて説得される部分もある。しかし、やがて「食べないと死ぬというのは単なる思い込み」と言い始めると何か引っかかる。 次なる段階は、一度の食事で一種類の食べ物を摂取する「モノ・ダイエット」だ。ここまでくると、明らかに不調や摂食障害の症状が見られる子どもたちの姿も。しかし、信仰に傾倒するかのようにノヴァクが説く食の哲学に子どもたちは身も心ものめりこんでいく。 ノヴァクは極めて危険な存在だが、そもそも論として子どもたちがノヴァクに信頼を寄せてしまうのはなぜなのか? 親の無力さが目立つ作品でもあるが、こうなった場合、親は子どもの食と命を守ることができるのか。あるいは親との絆がしっかりしていれば、子どもはノヴァクに傾倒しなかったのだろうか? 本作は極端ではあるけれど、今の時代には考えずにはいられないイシューやエッセンスがちりばめられている。摂食障害に関する描写もあるので、体調がいいときに観てほしいと思う。 監督・脚本/ジェシカ・ハウスナー 主演/ミア・ワシコウスカ 配給/クロックワークス 公開/12月6日(金)より新宿武蔵野館ほか全国公開 ©COOP99, CLUB ZERO LTD., ESSENTIAL FILMS, PARISIENNE DE PRODUCTION, PALOMA PRODUCTIONS, BRITISH BROADCASTING CORPORATION, ARTE FRANCE CINÉMA 2023 ※BAILA2025年1月号掲載