「ロールアップ戦略」の意味を説明できますか? 急成長する企業がこぞって注目する経営手法の「驚くべき中身」
まだまだある「ロールアップ戦略」の成功例
また、エムスリー株式会社は、医療従事者向けのオンラインプラットフォームを基盤に、医薬品マーケティングや治験関連サービスを提供する企業として急成長を遂げている。同社は企業を次々に買収し、業績を大幅に伸ばした。特に、治験市場においては、新薬開発の加速を支援するデジタル化や効率化を進めるため、数十件の買収を実施している。 これにより、治験のリードタイム短縮やコスト削減が可能となり、医薬品業界の革新を支える主要なプレーヤーとしての地位を確立した。 さらに、ロールアップ戦略に成功している企業といえば、ソフトウェア品質保証の株式会社SHIFTが挙げられる。SHIFTは、社内でM&Aチームを内製化し、圧倒的なスピード感と独自の基準でM&A件数を伸ばしてきた。これまでの総投資金額は265億円で、2023年度は45億円の利益を生んでいる(EBITDA; 利払い前・税引き前・減価償却前利益)。 これらの事例は、中小企業を積極的に買収し、シナジーを生み出す「ロールアップ型M&A」が、企業成長の有効な手段であることを示していると言えるだろう。
巨大化がとまらないGAFAMに勝つには
ただし、大企業同士のM&Aが進行することで、市場独占のリスクも指摘されている。これについて、及川氏はこう述べる。 「日本国内で大企業同士の統合が進むと、独占の懸念が出る可能性はあります。しかし、グローバルな競争で勝ち残るためには、一定の規模を持つ企業が不可欠です。GAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)と呼ばれる巨大企業は、先に挙げたGoogleだけでなく、どこも次々と他社を買収し、さらに巨大化しています。日本もこの流れに適応しなければ、国際競争力を維持することは困難でしょう」
M&Aで職場環境はどう変わる?
M&Aは企業の成長や再編にとって重要な戦略である一方、従業員にとっては厳しい試練となることも多い。新しい経営方針や企業文化に適応するためには、従業員は柔軟に変化を受け入れなければならない。時にはリストラや部署再編が行われ、職場の安定性が揺らぐことも少なくない。 たとえば、キャッシュレス決済分野で知られる株式会社Origamiが2020年にメルカリに買収された際には、従業員の約9割にあたるリストラ策が講じられたと報じられている。M&Aでは、時に組織の再編やコスト削減の一環として、従業員は退職を余儀なくされることもある。 しかし、厳しい環境の中でも、変化を受け入れ新たなチャンスを掴む者もいる。大企業同士のM&Aでは、新たなリソースやネットワークにアクセスでき、スキルや知識を広げる機会が提供されることもある。 及川氏はこう述べ、ポジティブな姿勢の重要性を強調している。 「M&A後の環境に適応することは、ビジネスパーソンにとって大きな試練です。しかし、柔軟性と迅速な対応力を持つ人は、この変化をチャンスに変えることができます。メルペイが数百億円の売上を達成し、成功を収めた背景には、Origamiのエンジニアたちの貢献が大きかったという話もあります。プロダクトは失われても、一部の従業員は新たな環境で成功を掴んだのです」 他にも、2010年に韓国のネイバー社が株式会社ライブドアを買収したケースも注目に値する。この買収は、ライブドアの従業員にとって、当初は不安を伴うものであったが、結果としてはポジティブな転換点となった。 ネイバー社による大規模な投資と経営の立て直しにより、ライブドアの従業員たちはより安定した経営基盤のもとで働くことができるようになった。特に、技術部門やサービスの改善に注力した結果、業績が向上し、グループ全体のシナジー効果も生まれた。このように、買収後に新たな資源と技術を活用し、従業員たちはより良い環境で働けるようになった成功例だと言える。 しかし、すべてが順調に進むわけではない。リストラや部署の統廃合が行われ、従業員が職を失う恐れもある。特に、業務の重複や文化の違いが原因で、職場の統合がうまくいかないケースも少なくない。従業員はこうしたリスクを理解し、常にキャリアの選択肢を持っておくことが重要だ。