全焼した「中村荘」の前で現場検証を進める消防隊員ら（2017年5月9日、北九州市小倉北区で）

　6人が死亡した北九州市小倉北区のアパート「中村荘」火災で、現住建造物等放火と住居侵入の容疑で逮捕された元住人の無職井上浩二容疑者（56）について、福岡地検小倉支部は17日、両罪に加え、殺人と殺人未遂罪も適用し、福岡地裁小倉支部に起訴した。地検支部は、放火すれば死者が出る危険性を井上容疑者は認識しており、殺意が認められると判断した。 【地図】北九州市

　起訴状では、井上容疑者は2017年5月7日午後11時10～15分頃、無施錠だった中村荘1階出入り口から侵入し、入居者らが死亡するかもしれないと認識しながら1階便所前にガストーチのような物で放火。木造2階建て283平方メートルを全焼させて6人（当時55～84歳）を殺害し、5人に重軽傷を負わせたとしている。入居中の生活困窮者ら16人中14人がおり、残る3人は脱出して無事だった。

　福岡県警は9月、井上容疑者を逮捕、送検。その後、火災約1年前の入居歴から容疑者には建物の構造や入居実態の認識があり、人が死んでも構わないという「未必の故意」が成立するとの見方を強め、送検容疑に殺人容疑を追加した。同支部も同様に判断し、殺人罪を適用したとみられる。

　弁護人は17日、報道陣に対し、「（井上容疑者は）否認している」とするコメントを出した。

　井上容疑者は、火災8日後に県警八幡東署交番の原付きバイクに放火した非現住建造物等放火容疑などで逮捕され、22年4月に懲役6年の福岡高裁判決が確定して服役していた。

構造熟知、危険性認識と判断

　6人もの命が奪われた火災は、厳刑求刑の可能性がある「放火殺人事件」として法廷で審理されることになった。井上容疑者は全面否認を続けており、裁判員裁判が想定される公判では、間接証拠による立証が焦点になりそうだ。

　「捜査を進め、証拠を収集、分析して公判請求に至った」。17日、地検支部で岡本貴幸支部長は語った。

　県警は逮捕時、容疑に殺人を入れなかった。放火事件の殺意立証はハードルが高く、捜査関係者間で意見が割れた背景がある。