北九州6人死亡アパート火災、元住人を放火や殺人罪で起訴…福岡地検小倉支部「未必の故意」と判断
複数の法曹関係者によると、放火事件では容疑者が現場にいたことを示す遺留物が焼失するなど捜査が難しい。さらに殺人罪が成立するには、油をまくなど確実に炎上させる方法、部屋の施錠や熟睡時間帯を狙うなど避難を妨げる措置、殺害につながる動機などが求められることが多い。
捜査関係者によると、今回は犯人のDNAなど直接証拠が収集できなかった。油性反応も出ず、建物は逃げようと思えば逃げられる構造で、出火も日が変わる前の午後11時過ぎ。井上容疑者と住人のトラブルも確認されず、県警は確定的な殺意の立証は難しいと判断した。
一方で容疑者は火災の約1年前に入居していた。県警は、建物の構造や入居状況を熟知しており、夜間に古い木造アパートに放火すれば人が死ぬ危険性を認識していたと判断。出火場所は階段そばとみられ、死者6人中3人が2階住人で、階段を下りて避難できた住人もいないことから、「未必の故意」なら立証できるとの確証を強めた。
ただ、動機につながる供述も得られていない状況で、慎重論も根強く、殺人容疑での逮捕は見送っていた。それでも、逮捕後の取り調べ状況や補充捜査などから犯人性の心証が高まり、逮捕後に把握した遺族の意見で強い処罰感情も確認できた。結果の重大性を踏まえ、殺人罪を適用すべきだとの考えが県警や検察内部で強まったという。
元検事の亀井正貴弁護士(大阪弁護士会)は「7年以上前の古い事件。検察が逮捕後の供述を把握した上で殺人罪の適用を判断しようとしたり、遺族の声が適用を後押ししたりした可能性がある」とみる。
容疑者は否認、直接証拠なし
直接証拠がなく、検察側は間接証拠で犯人性や殺意を立証する見通しだ。
捜査関係者によると、防犯カメラ70台以上の解析で、火災前後に中村荘付近と井上容疑者宅を往復した人物と、容疑者の衣服やバイク、歩き方の特徴が一致。さらに容疑者は逮捕前、一部の映像は「自分」などと話し、火災前後に現場周辺にいたことも認めたという。