クワイエットラグジュアリーからジェントルラグジュアリーへ。【2024年秋冬トレンド解説|井上エリ編】
Q2. 注目しているトレンド(スタイル、アイテム、素材など)は?
Answer:"ジェントルラグジュアリー"を象徴するように、思わず触れたくなるようなフワフワ&モコモコの質感が目を引きました。 具体的にはモヘアニットやシアリング、フェイクとリアルのファー、ベルベット、コーデュロイ、ウールもブラッシュトで柔らかな質感に仕上がっています。レザーもウエアにしろバッグにしろ、今季は軽くしなやかで柔和な印象です。色は圧倒的に深みのあるグリーンが多く、なかでもフェラガモのモスグリーンやオリーブグリーンの美しい色調に目を奪われました。
Q3. 特に印象に残ったブランドとその理由。
Answer:今季のムードを総括するには、ドリス ヴァン ノッテンなくして語れません。見慣れた日常着を異なる視点で捉え、斬新なスタイルを打ち出しました。 "日常"に焦点を当てて、スタイリングからカラーパレット、質感まで、トレンドをすべておさえていました。ショーの時には発表されていませんでしたが、創業者ドリス・ヴァン・ノッテンが手がけた最後のウィメンズコレクションという意味でも、忘られないシーズンとして残りそうです。
クロエのデビューコレクションも文句のつけようがない最高の仕上がりで、心を奪われました。感動ポイントはたくさんありましたが、ロエベのコレクションに脳天を撃ち抜かれた瞬間が最も印象に残っています。美しいカットのイヴニングドレスから、異様なシルエットのデイリーウエア、極小のキャビアビーズを敷き詰めた装飾、ジョナサン・アンダーソンらしいコンテンポラリーアートのアプローチと、すべてが完璧なバランスでした。
Q4. コレクション取材を終えて感じることは?
Answer:ロンドン・ミラノ・パリを毎シーズン取材していて、この2年くらいはミラノが最もおもしろいと感じています。 ビッグメゾンで世代交代が進み、若々しいエネルギーと古典的なイタリアらしさが調和して、良い転換期を迎えたような印象です。国際的なブランドが多いパリコレの多様性とは少し異なり、イタリアらしい独自の美学を継承しつつも、古典主義を崩しながら再解釈するムードが刺激的で、ミラノに新しい風が吹いているようです。 井上エリ Elie Inoue パリ在住ファッションライター @elieinoue *「フィガロジャポン」2024年7月号より抜粋
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