[関東]岡山内定の献身的ボランチが掴んだ4年前とは異なる自信。流通経済大MF藤井海和は信頼をエネルギーに目の前のピッチを走り続ける!
[8.17 関東大学L1部第12節 流通経済大 1-1 東海大 RKUフットボールフィールド] 【写真】「可愛すぎて悶絶」「金メダル」「新しいジャケ写かと」大物歌手が日本代表ユニ姿を披露 この男のマインドは、いつだってそうだ。何より一番に考えているのはチームの勝利。そのために自分がやるべきことだけにフォーカスしていく。それは学年や、役職や、ポジションに関係なく、常に持ち合わせている基本姿勢だけれど、それがキャプテンともなればなおさらのこと。心の内側に情熱と闘志をたぎらせ、自分にベクトルを向け続ける。 「チームが勝つために何ができるかというのを本当にもっともっと考えないといけないなと思っていますし、それが自分の成長にも繋がると信じているので、自分で考えるだけではなくて、それを発信して、周りを引き込めるようなキャプテンになりたいなと思っています」。 名門・流通経済大を率いる10番のキャプテン。MF藤井海和(4年=流通経済大柏高/ファジアーノ岡山内定)はプロサッカー選手という憧れの職業を自らの手で手繰り寄せた今、残り少なくなりつつある大学生活の日々の中で、1つでも多くのものをチームに残そうと奮闘している。 追い付いた側も、追い付かれた側も、どちらもピッチに倒れ込む選手が続出していたが、よりダメージが残ったのは間違いなく後者だろう。「1-0でリードした中で後半を迎えて、残り3分のところで失点してしまうのが今の自分たちの現状だと思っていますし、それが弱さだとも思っています」。そう話した藤井も唇を噛み締める。 延期分の開催となった東海大とのホームゲームは、前半にFW大氏凛州(3年=JFAアカデミー福島)が2戦連発となるゴールを叩き出し、流通経済大が先制点を奪ったものの、ハーフタイムに入ると雷雨の影響もあって、試合は2時間近く中断。ウォーミングアップも挟んでようやく再開された後半は、一転して東海大が攻勢を強めていく。 先週の筑波大戦は、後半に入って逆転しながら、84分から2ゴールを喫して逆転負け。「今は残留争いという形になってしまっていますし、先週のことがあったので、より今日の試合は絶対に勝ちたかったです」と話した藤井も、1点をリードした最終盤はいつも以上に声を張り上げて、チームメイトを鼓舞し続ける。 ところが、サッカーの神様はホームチームにとって厳しいエンディングを用意していた。90+4分。左右に揺さぶられた流れから、相手のシュートがゴールネットを揺らす。3試合ぶりの白星は、土壇場でその手の中からこぼれ落ちる。 「あの失点のワンプレーは今でも悔やんでいますね。ほぼ負け試合だと思っているので、あそこで流れを切れたりしていたら勝っていたかもしれないなと考えると、本当に悔しい試合になったなと思います」。失点シーンを振り返りながら、キャプテンはその責任の矛先を自身に向け直す。 「先週の試合でも残り10分で勝ち点が3から一気に0になって、今日も3から1になってしまって、もったいない試合をずっと続けていることは自分が一番感じていますし、何よりキャプテンという立場でありながら、最後のところでチームを締め切れないところが自分の弱さなのかなと思っています。現状としては凄く苦しいというのが本音ですけど、この苦しいままで終わるわけにはいかないので、今日の試合がキッカケになって、チームが勝てるようにしていきたいと思います」。前を向くための材料を探しながら言葉を紡ぐ姿に、キャプテンとしての自覚と苦悩がほんの少し垣間見えた。 7月11日。ファジアーノ岡山から藤井の来季加入内定リリースが発表された。大学年代有数のボランチとしてその進路が注目されていた中、本人は「一番声を掛け続けてくれたのが岡山さんで、キャンプも行かせてもらって、試合も出させてもらったんですけど、『自分の特徴が一番出たな』ということを肌で感じたので、自分のプレースタイルに合っているなと思いましたし、その時は大学の先輩の仙波大志くん(現・ザスパ群馬)もいたので、『優しい雰囲気の良いチームだな』と感じました」と言及。チームの雰囲気も決め手の1つになったという。 とりわけ印象に残っているのは、同じポジションを主戦場に置くレフティだ。「自分は流経に行こうとしていて、中3の時に流経対前育の選手権の決勝を見ていたので、田部井(涼)選手は高校生の時から憧れというか、自分が知っている人で、やっぱり上手いなと思いました。自分とは全然タイプが違うんですけど、ああいうプレーができるようになれば、もっと良い選手になれるかなと感じていますし、他にも竹内(涼)さんや藤田(息吹)さんのような素晴らしい中盤の選手がたくさんいるので、そういう選手からいろいろなものを盗めれば、自分ももっと成長できるなと思っています」。 藤井は高校2年生の冬に名古屋グランパスの練習に参加。その時に突き付けられたプロとの圧倒的な差は、自身のキャリアを考える上で間違いなく転機になったという。だからこそ、岡山の練習へ参加した際に、4年前とは明らかに違う自分の成長を感じられたことは、プロ入りを決断する上で大きなポイントだったようだ。 「プロを相手にしても、自信を持って自分のプレーができたというのが一番嬉しかったので、それが一番大学に来て良かったなと思ったことでしたね。『この4年間の選択は間違っていなかったな』と」。確かな自信を携えて飛び込むプロのステージ。せっかくならば目指せるだけ、上へ、上へと駆け上がってやる。 「最終的な目標として『ワールドカップに出たい』ということは、アンダーの代表に入ったころから思っていたので、22歳からのプロスタートというのはもしかしたら難しいかもしれないですけど、代表で1回一緒にやった佐野航大くん(現・NECナイメヘン)も岡山からオランダに行って、ああいう活躍をしているので、自分も諦めなければ可能性はあるなと考えていますし、諦めずに自分らしく、一歩ずつ進んでいければいいなと思っています」。この4年間が決して周り道ではなかったことを、自分の活躍で証明してみせる。 残された大学生活は4か月あまり。高校時代にも、大学時代にも、あと一歩まで迫りながら、まだ届いていない最大の目標だけを見据えて、キャプテンとして為すべきことは決まっている。「このチームで過ごした4年間への感謝を、日本一という形で恩返しできたら一番いいなと思っているので、日本一になれるようにここからも頑張りたいです」。 以前、藤井が話していた言葉を思い出す。「チームが勝てば一番なので、自分は目立たなくていいんです。チームには点を獲る選手もいれば、守備で頑張れる選手もいると思うんですけど、自分は黒子的な存在で全然良くて、チームのためにプレーしていれば、それは必然として目立つことにも繋がっていくと思うので、そういうことは自分が大切にしているところです」。 すべてはそこに集約される。何より一番に考えているのはチームの勝利。その中で自分がどう振る舞うべきかに、いつも頭をフル回転させている。普段は優しい笑顔が印象的だが、ここぞという時に頼れる漢。今までもずっとそうしてきたように、これからのキャリアの中でも藤井海和は、信頼を寄せられ、信頼を寄せる人たちのために、そして多くの子どもたちに夢を与えるために、目の前のピッチを全力で走り続ける。 (取材・文 土屋雅史)