ラム酒蒸留所がつくった「琉球泡盛」オーク樽で熟成させた美しい琥珀色の古酒
■沖縄の宝である泡盛は世界でも珍しい黒麹菌の酒 琉球の昔から、島の宝として大切にされてきた泡盛。琉球王国では客人のもてなしや幕府への献上品として重宝され、泡盛造りに失敗した蔵人は島流しの刑にあったとの記録も残る。 【関連画像】ラム酒蒸留所がつくった「琉球泡盛」オーク樽で熟成させた美しい琥珀色の古酒 製法はタイから伝わり、15世紀頃から日本で造り始められたという説が一般的だ。 泡盛の材料はタイ米、黒麹菌、水、酵母の4つ。蒸したタイ米に黒麹菌を混ぜ込み、後から水と泡盛酵母を合わせてアルコール発酵させ「もろみ」を作る。このもろみを蒸留すれば、米のうま味が広がる泡盛のできあがりだ。 泡盛の大きな特徴は、この黒麹菌。黒麹菌のみで仕込む酒は世界的にも非常に珍しいという。ちなみに日本酒は黄麹、焼酎は白麹で仕込む。 泡盛を造るヘリオス酒造の敷地に立つ建物は、ところどころ黒い。製造本部長の玉城英哉さんは「黒麹菌は非常に強いため、海からの風で飛び、風下の建物まで黒い色に染めるんです」と話す。 一般にも公開されている泡盛工場を見学させてもらうことに。2階の床には、1階まで延びるもろみの発酵タンクの蓋がずらりと並ぶ。特別に中を見せてもらうと、灰色をしたもろみが、甘酒に似た甘い香りを漂わせている。 仕込みから約3週間で、熱伝導が良い銅製の蒸留器へかけられ、泡盛の原酒が造られる。 「蒸留器の煙突の高さも重要で、ほど良い低さにするとアルコールと一緒に穀物の個性も煙突を飛び越え酒に移るんです」。 この差が蒸留所ごとの味を生むのだろう。 ■■樽で熟成して色づいた琥珀 ヘリオス酒造を代表する「くら」。中央は沖縄限定の3年古酒(720㎖/1320円)、右・原酒8年(700㎖/8470円)、左・原酒12年(700㎖/1万3200円)。 ■■ヘリオス酒造が誇る3つの熟成容器とは? 熟成容器には、昔ながらの甕、特注のオーク樽、近代的なステンレスタンクを使用。それぞれの長所を生かしながら、風味の違う酒を造り分ける。 ・泡盛造りで使う伝統の“甕”甕で呼吸しながら育った泡盛には、土の芳香がつき力強い味わいになる。 ・ラム酒貯蔵の“オーク樽”ラム酒造りで培った樽の熟成技術を泡盛にも応用。芳醇な味わいになる。 ・最新技術の“ステンレスタンク”熟成期間を短くして、すっきりとした味わいをめざすときに使う。 ■樽で熟成した琥珀色の泡盛、平和な世と古酒を次代へ ヘリオス酒造の真骨頂は、樽を使った独自の泡盛熟成法にある。昭和36年(1961)に創業したヘリオス酒造。当時は太陽醸造と名乗り、沖縄の太陽の恵みであるサトウキビを使ったラム酒造りからスタートした。 そこで培った熟成技術を、泡盛に応用したのだ。熟成させるほどにうま味を増すのが泡盛の特徴。樽熟成はピタリとはまり、琥珀色に輝く酒が生まれた。 泡盛の原酒を中心に6000樽を寝かせるのが、二の蔵と呼ばれる貯蔵庫だ。「もし香りが強過ぎたら外に逃げてください」という玉城さんの言葉にひるみながら中へ入ると、ウイスキーに近いような芳香に包まれた。貯蔵庫に並ぶ木樽が圧巻だ。 主力商品の「くら」の熟成には北米産の樹齢70年以上のホワイトオークで作る特注の樽を使う。オーク樽はほどよく呼吸をし、熟成を進めてくれる。 見学の後は、ショップの中にあるバーカウンターで飲み比べをさせてもらった。熟成の若い泡盛は、フレッシュで舌にピリッとくる。華やかに香るのはやはりオーク樽。3年以上熟成させた古酒(くーす)は、味も香りも丸くなる。 12年ものの原酒はまた別物で、上等なウイスキーと泡盛の良いところを合わせたようなふくよかさだ。「飲み比べていくと、舌の上に泡盛の地図が広がっていくんです」と玉城さんが笑顔を見せる。 沖縄に泡盛の年代ものが少ないのは、戦争でほとんどが焼失してしまったからだという。 「平和じゃないと、酒造りはできないなと痛切に感じます。私たちの蔵は企業というより、次の代へ平和な世と古酒をつないでいくための家業なんです」。そう言って、玉城さんが力強くうなずいた。 ■■オーク樽が生み出す泡盛の味わいは? ラム酒やウイスキー造りで一般的な樽熟成は、泡盛にもまろやかでコクのある味わいと芳醇な香りを生み出す。オーク樽は内側を焦がす加工がしてあり、泡盛にも特有の良い香りが移る。 ■■泡盛造りに欠かせない黒麹菌とは? 元々沖縄の自然に存在したという黒麹菌。泡盛造りの過程でクエン酸を大量に生成するため、高温多湿の沖縄においても仕込み途中のもろみの腐敗を防いでくれる。また、泡盛らしい濃厚な味わいと甘い香りを生み出す。 黒麹菌は非常に強い麹菌のため、工場内の壁面だけでなく周辺に立つ酒の熟成倉庫までも胞子が飛び、黒く染めてしまう。 ■■topic ・2000年の沖縄サミットを記念して造られた二の蔵では泡盛の「百年樽」が76年後の開封を待つ。2000年に開催された沖縄サミットを記念したもので「百年後も泡盛が楽しめる平和な世を」との願いが込められている。樹齢200年の木を用いたオーク樽が使われた。 ■■併設の古酒蔵ショップで試飲を楽しめる! ショップ内のバーカウンターでは、泡盛を中心に試飲が楽しめる。無料試飲だけで13種を取り揃え、貴重な古酒も手頃な価格で提供する。ヘリオス酒造の原点であるラム酒も味わいたい。 ヘリオス酒造 沖縄県名護市字許田405 TEL:0120-41-3975 営業時間:10:00~17:00(酒蔵見学は11:00~、15:00~、各回とも要予約) 定休日:無休 ※酒蔵見学は水曜休み 文/中村さやか 撮影/渡部健五