「高齢女性が1億のビルを主治医に贈与しようとしているらしい」...病院を舞台に、持ち主の知らぬ間に「融資や売却が繰り返される」地面師詐欺に発展
“生前贈与”されたことにして転売
次に手掛けたのが、清子がかかりつけの医師にもちかけたビルの贈与話である。彼女にしてみたら本気でそう考えていたのかもしれないが、実際は話だけで贈与などしていない。地面師たちはそこに付け入る隙を見出した。 宮田グループは年が明けた13年1月、クリニックの医師に関する書類を偽造し、「贈与」された旨の不動産登記を済ませた。そうしておいて、福岡市の不動産会社「未来」に売買話を持ち込んだ。 「贈与された医師とは売買の話がついているので、ビルの購入資金を融通してくれたら、すぐに物件をお渡しします」 要するに転売だ。整理すると、吉村清子からクリニックの医師へビルを贈与、さらに宮田の経営する「名電」が医師からそれを買い取り、最終的に「未来」に売却するという筋書きである。登記簿で確認すると、東向島のビルは1月22日付で医師に贈与され、その9日後の31日付で「名電」、さらに同日売買で福岡の「未来」へ転売されたことになっている。 このとき未来から名電に対し、7000万円の売買代金が入金されていた。つまり持ち主の吉村清子や相談相手の医師の知らぬうちに、融資や売却が繰り返されてきたわけだ。典型的な地面師の取引である。
次々と逮捕も...
事件が世に明るみに出たのは、実際のやりとりから4年経った2017年2月のことだった。 〈病院舞台に不動産所有権を不正移転か 警視庁、地面師6人を逮捕〉と題した産経新聞の2月7日付記事でそう報じられている。 〈女性が所有していた東京都内の土地や建物の名義を勝手に変えたなどとして、警視庁捜査2課が、電磁的公正証書原本不実記録・同供用などの容疑で、地面師グループのメンバー6人を逮捕していたことが6日、捜査関係者への取材で分かった。土地の移転先は女性と接点がある病院関係者であることから、捜査2課は病院を舞台にした地面師事件の疑いもあるとみて、慎重に調べを進めている。 地面師グループは、他人の不動産を無断で転売し、利益を得る詐欺集団。精巧な偽造公文書や私文書を駆使して所有者や仲介者に成り済ました上で、所有者が知らないうちに不動産の所有権を移転し、転売する〉 警視庁捜査2課と向島警察署は、主犯格の宮田、亀野ら6人の地面師グループを詐欺容疑などで次々と逮捕した。 もっとも6人のうち起訴されたのは宮田たち2人だけで、他の白根たちは不起訴となって釈放された。 『「大都会の狭間にぽっかりとあいた異様な空間」...アパホテルが騙された12億の地面師事件の現場となった土地の“奇妙な変遷”』へ続く
森 功(ジャーナリスト)
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