「高齢女性が1億のビルを主治医に贈与しようとしているらしい」...病院を舞台に、持ち主の知らぬ間に「融資や売却が繰り返される」地面師詐欺に発展
今Netflixで話題の「地面師」...地主一家全員の死も珍しくなかった終戦直後、土地所有者になりすまし土地を売る彼らは、書類が焼失し役人の数も圧倒的に足りない主要都市を舞台に暗躍し始めた。そして80年がたった今では、さらに洗練された手口で次々と犯行を重ね、警察組織や不動産業界を翻弄している。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ」…性的虐待を受けた女性の「すべてが壊れた日」 そのNetflix「地面師たち」の主要な参考文献となったのが、ノンフィクション作家・森功氏の著書『地面師』だ。小説とは違う、すべて本当にあった話で構成されるノンフィクションだけに、その内容はリアルで緊張感に満ちている。 同書より、時にドラマより恐ろしい、本物の地面師たちの最新手口をお届けしよう。 『地面師』連載第47回 『「1億円超え」の不動産を「主治医」に生前贈与…身寄りのない高齢者の《噂》が“闇の不動産ネットワーク”を駆け巡る』より続く
持ち主の知らぬ間に...物件を担保に融資
身寄りのない独居老人の持つ優良物件は、かねてより不動産ブローカーのあいだで注目されてきた。やがて、清子が主治医に不動産の処理を託しているというその話が、広まっていった。中央区湊で広告・イベント会社「名電」を経営する宮田康徳が2012年9月、たまたま大物地面師からそれを伝え聞いた。それが事件の引き金となる。宮田は広告業のかたわら、不動産コンサルタントを自称してきた。 宮田らはまず、吉村清子の持つビルを担保に融資を受ける算段をした。 「今度、向島の物件を買うことになった。持ち主との実質的な売買契約は完了しているので、物件を担保に8000万円ほど融通してくれないか」 そう持ちかけた相手が、板橋区のロウィーナゲイトという会社だ。千代田区隼町の不動産会社「クレオス」社長の白根学が、この会社を見つけてきた。白根もまたバブル期に数々の地上げをこなしてきた名うての不動産ブローカーである。このとき宮田グループのキーマンとして、計画に加わった。 ロウィーナゲイトにしてみたら、ビルの売買契約の合意さえあれば、悪い話ではない。8000万円を融資すれば、たとえ返済がなくても抵当権を設定して事実上1億円相当の物件を手に入れられる。所有権を移せば、追加で新たな借り入れを起こすこともできる。そうして8000万円の融資を実行した。 一方、宮田たちはビルの持ち主である吉村清子と売買の約束など交わしていない。いわばこれそのものが詐欺行為だ。が、宮田たちの狙いはこれだけではなかった。
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