「家政婦過労死」勝訴が映し出す不都合な真実
「家事労働者の過労死」を初めて認めた東京高裁の判決が、被告の厚生労働省の上告断念によって、10月3日確定した。それは、軽い仕事と見られがちな介護・家事労働の意外な危険性など、日本の介護をめぐる三つの「不都合な真実」を映し出した。
「4時間半」が「15時間」に
2015年5月。家事・介護サービス会社を通じ、住み込みで家事と重度の認知症高齢者の介護にあたっていた女性(当時68歳)が、1週間の連続勤務が明けた日、心臓疾患で急死した。 遺族の労災申請は却下され、厚労省などを相手取った不支給決定取り消し訴訟も東京地裁(片野正樹裁判長)で敗訴した。それが今年9月の東京高裁(水野有子裁判長)では、原告の全面勝訴とも言える大逆転判決となった。分かれ目となったのは「何を労働とするか」の判断だった。 労働基準法は116条2項で、「家事使用人については、適用しない」としている。「家事使用人」とは、個人で家庭と契約を結ぶ家事労働者のことで、家事代行会社などの被雇用者は含まれない。地裁は女性の家事部分を「家事使用人」と仕分けして労基法(つまり労災)の対象から外し、【図表1】のように介護保険の対象になる介護部分の4時間半だけを会社との契約とした。これでは厚労省の過労死ラインには遠く及ばない。 これに対し高裁判決は、女性が実際にこなしていた仕事をひとつひとつ検証し、業務計画書などから、家事部分も含めて会社から指示だったことを認定、「家事使用人」ではないとした。 そこから見えてきたのは、被介護者と息子の食事を一緒に用意するなど家事と介護は混然一体となり、専用の個室がないため台所の椅子などで休憩を取りながら2時間おきのおむつ替えや介護にあたり、その合間に庭や車庫の掃除などの家事もこなす厳しい連続労働の実像だ。 夜は午前0時から朝5時までが「休憩時間」という契約だったが、息子が起床する6時前に被介護者の流動食を用意するため4時半には起床する。その間も被介護者のベッドの脇で眠り、容体に気を配りながら定期的におむつを替える。そのうちの朝の4時半から夜8時半までについて、3回の食事時間を除いた15時間が、労働時間として認定された。 会社の時給は2000円とされていたが、日給は8時間分の1万6000円とされ、超過分は払われない「定額働かせ放題」的な賃金体系だったことも見えてきた。