映画『Cloud クラウド』監督の黒沢清──「普通の人間がひょんなことから殺し合いをするアクション映画を撮りたかった」
黒沢清監督、菅田将暉主演の映画『Cloud クラウド』が公開される。第97回米国アカデミー賞国際長編映画賞の日本代表作品に決定した本作は、普通の人が殺し合いを始めるあり得ない設定ながら、どこか自分ごととして捉えられる魅力をもつ。本作に込めた想いを尋ねた。 【写真を見る】菅田将暉が狂気に巻き込まれていく映画『Cloud クラウド』のシーンをチェックする
映画『Cloud クラウド』のあらすじ
町工場に勤めながら、“ラーテル”というハンドルネームを使い、転売ヤーとして日銭を稼ぐ吉井。町工場での働きを認められ管理職への昇進を打診されたが辞職。郊外の湖畔に事務所兼自宅を借り、恋人との新しい生活を始める。転売ヤーとしての吉井は、知らず知らずのうちに人を傷つけ、小さな憎悪を生み出し、その憎悪はネット社会の闇を吸いどんどん大きくなっていた。そうこうしていると吉井の周辺で不審な出来事が重なり始め……。 監督を務めたのは、『スパイの妻』で第 77 回ベネチア国際映画祭銀獅子賞を受賞した黒沢清。主人公の吉井を菅田将暉、恋人を古川琴音、吉井の先輩を窪田正孝、後輩を奥平大兼、町工場の上司を荒川良々が演じ、現代社会の混沌と狂気をあぶり出すサスペンス・スリラーとなっている。 ■現実と虚構の境界線はどこなのか 映画監督・黒沢清が手掛ける最新作『Cloud クラウド』は、転売業で稼ぐ若い男が、得体の知れない集団による“狩りゲーム”の標的になるまでを描くスリラーだ。 ──本作を作ろうと思ったきっかけを教えて下さい。 ごく普通の人たちがのっぴきならない関係になり、最終的には生きるか死ぬかの殺し合いにまで発展してしまう。さらに主人公は真面目な悪人です。この手の映画は、70年代のアメリカでは結構ありましたが、いつの頃からか悪人はヤクザやチンピラといった分かり易い記号的存在となり、今ではそのような人たちが喧嘩するのがアクション映画だと思われるようになっています。そうでないものをやりたかった。この企画は、随分前から構想はあったのですが、実際にあった事件にもヒントを得て物語を広げていきました。映画で描かれていることはもちろんフィクションですが、意外と身近に似たようなことが起こっているんです。 ──菅田将暉が演じる主人公・吉井は、悪質な転売行為をしていても、真面目に働いていて、どこにでもいる普通の人間ですよね? 吉井は相手に合わせ態度を変える男です。そうやって曖昧で揺らぐ人間の濁りみたいなものを菅田さんが巧妙に演じてくれました。 ──監督の作品にはバスや電車、車といった乗り物が多くを語りますが、本作にはオートバイが登場します。 ほぼ初めて挑戦しました。風を受け一人前進する吉井の姿は、社会に対しがむしゃらに突き進んでいる危うさや、彼が不安定な状況に置かれていることのイメージにつながるかなと。 ──本作では脚本も執筆されたオリジナル作品ですが、原作ものを手掛けるときとの違いはありますか? オリジナルは基本的に自由にできますが、やはり僕が考えることなので、限界がある。不安と闘いながら最後まで撮りきる。その代わり、僕が作らなければ絶対に存在しなかった物語がここにあるという充実感は得られます。原作ものだと、逆に自分は考えてもいなかったものがそこにあるので、少し間違えても原作に戻ればいいという安心感で物語を広げていける。贅沢を言えば、原作ものとオリジナル作品をバランスよく交互に撮ることができたらいいなと。 ──恨みを買いそうな人間が続々出てくるのも本作の見どころですが、ご自身はどんな人間だと思いますか? 真逆のタイプです。出過ぎたことはしないよう本当に慎んで、目立たぬように生きていきたいと思っています。ただ、自分の生き方とは別に、作る映画に関しては常識など気にせず、何かを破壊してしまうような力のある作品を撮りたいと考えています。 <黒沢清> 映画監督。1955年生まれ。『CURE』(97)で世界的な注目を集め、『スパイの妻』(20)でヴェネツィア国際映画祭にて銀獅子賞を受賞。24年は『蛇の道』、『Chime』が立て続けに公開され、仏の芸術文化勲章オフィシエを受章した。 『Cloud クラウド』 2024年9月27日(金)全国ロードショー。 ©2024「Cloud」製作委員会 配給:東京テアトル日活 写真・内田裕介、取材と文・小川知子、編集・遠藤加奈(GQ)