日本経済に「明るい兆候が」…岸田首相、本誌取材に語った「GDP4位転落」の理由と、賃金・移民のこれから
平和国家としての路線は変わらない
──防衛力に関して言えば、今の日本はその強化に向けた改革を進めている。なぜ、そうした改革が今の日本に必要なのか? まず日本の安全保障環境について言えば、周囲を見渡すと核・ミサイル開発をしている国があり、軍事力を不透明な流儀で増強している国がある。また南シナ海や東シナ海では、力による一方的な現状変更の試みが見られる。それが現実だ。 このような状況を考えると、今の日本は第2次大戦が終結して以来最も困難で複雑な安全保障環境に直面している。この状況の下で、国民の命と生活を守らなければならない。 総理大臣に就任して以来、私は日本の国家安全保障戦略の大幅な見直しを行った。もちろん、その戦略の中でも平和を愛する国家としてのこれまでの歩みを変えるつもりはない。 しかし、この困難で切迫した安全保障環境の状況からすれば、まずは日本のために平和を守る環境を整えなければならない。だから外交と首脳レベルの交流を着実に進めていかなければならない。 わが国の基本的な立場を明確に示す一方、外交の足元を固めるためには自国の防衛力も強化しなければならない。その点を私は明確にした。そして防衛予算を対GDP比2%まで引き上げる方針を示し、反撃能力の保有とサイバーセキュリティーの強化に努めることも明言した。 また、九州・南西地域の防衛態勢を強化している。このように、防衛力強化に向けた取り組みを進めており、これを一歩一歩、着実に進めていきたいと思う。 国際情勢は複雑化している。どの国も単独で自国を守ることはできない。だから日本も、自国民の生命と生活を守るために自らの責任を引き受け、果たしていきたい。 しかし、それに加えて、この地域における抑止力と反撃能力を向上させるため、同盟国アメリカや志を同じくする国々、さらにはグローバルサウスも含め、外交政策を通じて連携を深めていきたい。これは非常に重要なイニシアチブだ。 ──防衛と外交、双方のニーズのバランスを取るのは難しい。特にアジアでは、日本の安全保障能力の強化に懸念を示す国もある。 先ほど申し上げたように、国家安全保障戦略が新たに策定されたが、平和を愛する国としてのわが国の針路は変わらない。専守防衛に徹し、非核三原則を堅持する。この基本方針は不変だ。その点は新たな戦略でも明確に示している。 この戦略に従った上で、日本にとって好ましい国際環境を、外交を通じて実現しなければならない。その取り組みにおいて最も重要な基本原則とは、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の実現だ。 武力によって現状を変えようとする試みは、世界のどこであれ、許されない。さらに、こうしたルールや国際法は、脆弱な国々を保護するために存在すると私は考えている。そのため、わが国は東南アジアやグローバルサウスを含む多くの国々に対して、国際的なルールに従った秩序を維持していくことの重要性を強く訴えている。 こうしたわが国の立場は、多くの国から支持を集めている。私たちは、法の支配に基づく国際秩序を維持するべきであり、国際社会において、対立や分断ではなく、協調を生み出すべきだ。これが、真っ先に打ち出すべき重要なメッセージだと私は考えている。 ──日本は安全保障の分野で今までより大きな役割を果たそうとしているわけだが、アジアにはそれを受け入れる準備があると思うか。 あると思う。わが国はこの地域の平和と安定、そして自由で開かれたインド太平洋の実現に向けて最善を尽くしている。しかしながら、この点については、いかなる誤解もあってはならない。わが国は、こうした目標を軍事力によって実現したいと言っているわけではない。平和国家である日本が望んでいるのは、経済やさまざまなインフラ支援策、さらに文化やスポーツといったソフトパワーの活用を通じた実現だ。 平和国家としての路線は変わらないと申し上げた。それに加えて、わが国には平和憲法がある。この憲法、そして国際法や国内の法規に基づいて外交および安全保障に取り組んでいく。また、この基本姿勢を地域諸国に説明することも重要だ。私自身は、この姿勢はアジア諸国の理解を得ていると考えている。