アメリカで過去10年で最悪の“百日咳”の流行【日本でも特に乳幼児は要注意!】
全米で百日咳が流行し、2014年以来の高水準に達している。今年はすでに昨年の4倍以上、16,000件以上の感染が報告されている。乳幼児や高齢者にとって命に関わるこの病気は、新型コロナウィルスのパンデミック後のワクチン接種の遅れや免疫力低下が原因とされ、日本でも警戒が必要だ。 〈写真〉アメリカで過去10年で最悪の“百日咳”の流行【日本でも特に乳幼児は要注意!】 ■ 百日咳とは? 百日咳は、激しい咳発作を引き起こす非常に感染力の強い細菌性の呼吸器感染症で咳が数週間から数ヶ月続くため「百日咳」と呼ばれる。特に乳児や高齢者にとって、命に関わるリスクがある。百日咳に感染すると、特徴的な「ヒュー」という音を伴った呼吸が咳の後に現れることがあり、重症化すると嘔吐や肋骨骨折なども引き起こすことがある。百日咳の初期症状は風邪に似ているため見逃されやすい。くしゃみや鼻水、軽い咳といった症状が出た段階では、百日咳と判断するのは困難である。米国疾病予防管理センター(CDC)によると、百日咳の診断が確定するまでに平均で2週間以上かかることが多く、その間に周囲の人々に感染が広がるリスクが高いとされている。 ■アメリカでの流行の背景 2024年、アメリカでは百日咳の症例が急増している。CDCのデータによれば、2024年の感染者数は16,000件を超え、昨年の3,700件を大きく上回っている。この背景には、パンデミック中のワクチン接種の遅れが大きく関係している。特に、2020年から2021年にかけて、多くの地域で予防接種が後回しにされた。CDCの報告書では、百日咳ワクチンの接種率がパンデミック前の90%から2021年には80%未満に低下したことが指摘されている。また、ロックダウンにより感染機会が減少し、免疫を得る機会が少なくなっていた人々が、通常の生活の再開と共に感染リスクにさらされている状況が背景にある。 ■ワクチンの効果とその限界 百日咳ワクチン(DTaP、Tdap)は、百日咳だけでなく、ジフテリアや破傷風に対しても有効だ。しかし、ワクチンの効果は時間と共に低下する。特に成人やティーンエイジャーでは、接種から数年後には免疫効果が薄れてしまう。米国CDCによると、ワクチン接種直後の小児では約98%の効果が確認されているものの、5年後には約71%にまで効果が減少するというデータがある。また、10年後にはさらに低下し、多くの成人が再接種を受けていないことが百日咳の再流行の要因となっている。再接種を行うことで、再び免疫力を高めることが可能だが、多くの成人がその重要性を認識していないのが現状だ。 ■乳幼児が最も危険 特に注意が必要なのは乳幼児だ。乳幼児は気道が狭く、感染により容易に閉塞され、呼吸困難や生命に関わる合併症を引き起こすリスクがある。米国の調査では、百日咳によって重篤な状態に陥った乳児のうち、約50%が入院治療を必要としている(CDC報告)。乳児がワクチンを接種できるのは生後2ヶ月以降だが、それまでの間、妊娠中の母親が予防接種を受けることで赤ちゃんを守ることができる。妊娠中のTdapワクチン接種により、生まれてくる赤ちゃんに抗体が移行し、生後早期の感染リスクを軽減できることが確認されている。 日本では、百日咳の大規模な流行はまだ確認されていないが、国際的な移動が再開された今、国内でも注意が必要だ。特に、幼い子どもや妊娠中の女性、また新生児と接触する人は、予防接種を確実に受けることが推奨されている。 出典: Worst U.S. whooping cough outbreak in a decade has infected thousandsWhooping Cough Cases Surge Across the U.S.: What You Need to KnowWhooping cough cases spike in the U.S., after people missed vaccinations during pandemic Pertussis Surveillance and Trends 文/山口華恵
山口華恵