百貨店の訪日客需要は「神風」?◆特需にしない、囲い込み狙う大手
◆免税ファストパス 海外店舗の顧客を国内店舗に誘引する施策も進める。高島屋は海外店のお得意さま向け会員カードの発行を始め、グループ海外店舗のクレジットカード顧客のうち、一定額以上の購入実績があるお得意さまを国内店舗に引き寄せる。 24年11月、シンガポール高島屋のお得意さま約1500人へ招待状を送り、同年12月から日本橋、大阪、京都の国内3店舗でサービスを開始した。訪日した際、通訳アテンドやサロンの利用のほか、免税手続きを優先的に受けられる「免税ファストパス」などを提供する。滞在時間が限られる中、免税カウンターの行列を待たず手続きが可能だ。 サービス開始2週間で約30人が利用し、好評だという。新宿店と横浜店への導入も検討する。 一方、海外に店舗を持たないJフロントは独自で顧客開拓をすることが難しく、現地で顧客基盤を持つ他社と連携する。大丸心斎橋店(大阪市中央区)ではタイの商業施設セントラルワールドのお得意さまが訪れた際、優待プログラムを提供。買い上げ金額に応じてギフトを提供したり、割引クーポンを配布したりする。 また、海外富裕層を会員に持つ企業との連携も始めた。日本国内へ投資する海外投資家向けに不動産などの資産運用を手掛ける企業と提携し、顧客の紹介を受ける。香港や台湾を中心とした海外投資家へ商品手配や提案、来店時のアテンドといったサービスを提供していくという。 ◆高級古酒を開発 海外富裕層に向けて、日本独自の名産やノウハウを活用した商品開発に力を入れる百貨店も。エイチ・ツー・オー(H2O)リテイリング傘下の阪急阪神百貨店(大阪市)は、日本酒大手の大関(兵庫県西宮市)と高級古酒「誉伊呂波(ほまれいろは)」を共同開発。特に品質が良いとされる兵庫県の特A地区で栽培された酒米「山田錦」を醸し、25年間低温で寝かせた。阪急うめだ本店(大阪市)や羽田空港の免税店などで150万円(税抜き)で数量限定販売するほか、海外販路も開拓する。 H2Oは26年度までに海外富裕層売上高を23年度の約3倍となる500億円まで引き上げる目標を掲げる。寧波阪急(中国・浙江省)を海外顧客ビジネスの拠点と位置付け、「中国に加え、アジア各国の富裕層をしっかり捉えていく」(H2O広報)という。 日本百貨店協会によると、訪日客の購買額を示す免税売上高は、24年1~11月の累計で5861億円に達した。過去最高だった23年の3484億円を大幅に上回り、年間6000億円を超える勢いだ。 同協会の西阪義晴専務理事は「(免税売上高は)不確定な要素がいろいろあるが、来年も同じような水準で推移すると見ている」と語った。 各社は成長を確実なものにするため、特需に頼らず、外国人富裕層の心をしっかりつかもうと試行錯誤を重ねる。