「国立大学の授業料値上げに反対する」宇都宮健児
東京大学が授業料を20%、約10万円値上げすることを検討していることを明らかにしたのに続き、広島大学など各地の国立大学でも値上げを検討する動きが相次いでいる。このような動きに対し、東京大学の学生や教職員による学費値上げに反対する声が急速に広がっている。 このような国立大学の授業料値上げの背景には、3月下旬に開かれた中央教育審議会の特別部会で、委員である慶應義塾大学の伊藤公平塾長が国公立大学の学費を年150万円程度、現状の約3倍に引き上げることを提言したこと、自民党の教育・人材力強化調査会(柴山昌彦会長)が国立大学授業料の事実上の値上げを求める提言を5月27日に盛山正仁文部科学相宛てに提出したことなどがある。 現在の国立大学の1年間の授業料標準額は53万5800円、入学金は28万2000円となっている。私が東京大学に入学した1965年当時の国立大学の授業料は1年間1万2000円であったので、現在の授業料は当時と比較して約44倍も高くなっていることになる。国立大学の学費は文部科学省令で標準額が定められ、大学の裁量で最大2割まで上乗せできることになっている。いくつかの国立大学はすでに値上げしているところも出てきている。 しかしながら、ヨーロッパや北欧諸国では大学まで授業料は無償のところが多い。OECD(経済協力開発機構)の調査によれば、2019年時点のGDP(国内総生産)に占める教育機関に対する公的支出の割合は、OECD平均は4・1%であるが、日本は2・8%で、データのある加盟37カ国中36位である。また、大学などの高等教育を受ける学生の私費負担の割合は、日本は67%でOECD平均の31%を大きく上回っている。 日本は国際人権規約(社会権規約)を1979年に批准しているが、同規約13条2項cでは高等教育の無償化をうたっている。国立大学の授業料の値上げは国際人権規約(社会権規約)に違反するものと言わねばならない。 また、国立大学の授業料の値上げは、教育を受ける権利を保障している憲法26条1項にも違反するものである。 政府は国立大学の授業料を引き上げるのではなく、私立大学の授業料も含めて無償化をめざすべきである。
宇都宮健児・『週刊金曜日』編集委員