立ち食いそば店の60代“深夜ワンオペ”は命がけ…敬遠されるのも無理はない【65歳アルバイトの現実】
【65歳アルバイトの現実】#23 立ち食いそば編 ◇ ◇ ◇ 前回は「回転寿司で賄い飯をたらふく食おう」と食い意地を張って面接に臨み、「3割引きですが有料です」と宣言された。それでも私はタダ飯に未練タラタラ。そこで立ち食いそば店に応募してみた。 今や外食ランチは平均1200円超の“高嶺の花”に…昼抜き「欠食サラリーマン」が増殖中? 訪れたのは都内のそばチェーン。店長の近藤氏(仮名)は、40代の温厚な人物で「人手が足りなくて困ってるんです」と話してくれた。 立ち食いそばとはいえ、店には常連客がついていて、午前、午後、深夜とそれぞれの時間帯に「腹減ったぁ」と立ち寄ってくれる。ところが人手が足りず、曜日によって深夜は閉めざるをえない。そのため客は「あそこは深夜営業をやめた」と判断し、夜中に店を開けても客が寄り付かない。 「だから深夜に店を任せられるスタッフが欲しい」というのが近藤氏の本音だ。私を面接したのも夜11時から翌7時までの8時間、店を切り盛りして欲しいからだ。 とはいえ私は飲食業の経験はない。それでもいいのかと聞くと、「まずは昼間働いて仕事を覚え、慣れてきたら深夜を担当してください」。 近藤氏はそう言って深々と頭を下げた。 ただ、深夜はワンオペ、つまりスタッフ1人だけの勤務となる。当然ながら、さまざまな事態が持ち上がる。たとえば酔っぱらいが「味がまずい」とクレームをつけるケース。 時には客が食後に眠ってしまう。その場合「お客さん、起きてください」と注意するのはいいが、怒鳴ってはいけない。あくまでも耳元でささやく程度にとどめる。客の肩をゆするなど体に触れる行為は厳禁だ。 「警備会社に連絡し、警備員に来てもらいます。出動した警備員がお客さまを店外に移動してくれるので安心です」 客が鍵をかけたままトイレで熟睡することもあるそうだ。 時給は昼間は1300円だが、深夜は割り増しで1625円に跳ね上がる。午前3時から45分間休憩が取れ、その間に店の料理を食べていい。 「ワンオペなので、外の看板を消し、店を一時閉店にして休憩します。何を食べてもかまいません。そばとカレーのセットでもいいし、かつ丼のセットもいい。お腹が減ってたら大盛りを食べてください。すべて無料です」 なんと食べ放題! しかもうれしいことに休憩中も時給が支払われる。つまり丸々8時間分のギャラがもらえるのだ。 そんな好条件なのに、なぜ人が来ないのか。疑問をぶつけると近藤氏は「牛丼屋でのことが影響しているようです」と教えてくれた。 ■2022年に起きた悲劇 牛丼屋のこととは名古屋市のすき家で起きた死亡事故だ。2022年1月、深夜ワンオペのバイト女性(58)が勤務中に死亡。死因は心筋梗塞とされた。女性は午前5時半ごろ厨房で倒れ、交代のために出勤してきた従業員に発見されたのは3時間も経過した8時40分だった。ニュースになったから覚えている読者も多いはずだ。 中高年には「何かの発作で倒れたとき、助けてくれる人がいるか」と心配する人が少なくない。かくいう私もこの1年ほど後頭部に鈍痛を感じ、病院で診察を受けたことがある。厨房の奥は客席から見えにくいものだ。昏倒し誰も気づいてくれなかったら、死の危険が高まる。だから深夜ワンオペは敬遠されるのだ。 60代の深夜バイトは命がけ。そんな現実を知らされた面接だった。 (林山翔平)