総文祭連覇の徳島・城東高演劇部顧問吉田晃弘さん「生みの苦しみ」抱えながら 稽古楽しむ生徒が励み【連載・表現者の現場】
まだ知名度がそれほどあるわけではない。しかし、創造に懸ける思いは熱い。美術、音楽、舞台、伝統文化…。将来は大きな賞に輝いたり大舞台に立ったりする日を夢見て、日々精進する徳島の表現者たち。創作の現場を訪ね、活動の様子や作品に込める思いを随時紹介する。 徳島市立高生の舞台作品映画化 コロナ禍で全国大会未上演「水深ゼロメートルから」 男女の不平等浮き彫りに 5月3日公開予定
城東高演劇部顧問 吉田晃弘さん(49)
徳島市の城東高校で演劇部の顧問をしている吉田晃弘教諭(49)=上板町鍛冶屋原=は昨年、今年と、全国高校総合文化祭で部を連覇に導いた。 吉田さんは脚本家の顔も持ち、新作「ダイブ」が10月「『日本の劇』戯曲賞2024」(日本劇団協議会主催)の佳作に選ばれた。佳作はもう1点あるが最優秀賞の該当作はなかった。 今まで約70作を残した脚本の中で全国規模の公募展の初受賞作だ。地下鉄の駅で5人が未知の何かを待つ不条理な物語で来年、東京で朗読劇となる。 脚本の創作は苦しく、のたうち回るという。「本番直前になっても書けていない夢」を何度も見ては飛び起きた。「こんな作品でいいのかと反省と恐怖が、いつもつきまとう」 まずストーリーやテーマに執着せず、状況説明を避ける。登場人物の関係を浮かび上がらせて会話をつなぐと個々の輪郭がくっきりし、局面は自然に展開する。 吉田さん自身、阿波高2年の春に演劇部員になった。広島大では映画サークルに所属した。教員になって城西高で初めて演劇部の副顧問に。顧問には日和佐高時代に演劇部を県内初の全国優勝に導いた紋田正博教諭がいた。その後、阿波高を経て城東高へ。城東高の日本一は日和佐高以来、39年ぶりの快挙だった。 吉田さんは演劇と断続的に約30年関わり、真面目に見つめてきた。今回の自作の受賞を喜びながら「演劇は人をつなぐ芸術」と語る一方、「演劇は面倒くさい芸術」とも強調する。演劇は人、時間、お金を要し、同じ舞台で同時に役者、スタッフ、観客が想像や感動を分かち合って自分と異なる人生を創るからだ。 芝居をゼロから生むのは苦しく、自分を必死にさらけ出して生んだ演劇が、いずれはゼロになる切なさも頭を離れない。演劇以外の趣味はないが「演劇も趣味かどうか、怪しい」。 休日はカフェで脚本を書くか、淡路や鳴門の海辺で波の音を聞き、潮の香りをかいでくつろぐ日が多い。 演劇の道を歩いて来たのは、生徒が自分の作品に魅力を感じてくれるから。「生徒が迫力や臨場感を出しながら、怒り、笑い転げて稽古をする姿を見ると『演劇っていいな』と思う」 今年3月、吉田さんも校内で舞台に立ってみたが、せりふが覚えられず、生徒に怒られながら稽古をした。「脚本は自分の作品でも、稽古の主体は生徒だから指導されていたのは実は自分。それが楽しかった」 欧米では演劇教育が盛んだが「日本で学べる芸術は音楽、美術、書道に限られる」と指摘。「舞台芸術の鑑賞の機会があっても体験はほぼなく、演劇部の役割は非常に大きい。違う自分を演じて想像力が養われ、他人を思いやったり自分を客観視したりできる」 高校時代、安部公房やつかこうへいの戯曲を好んだ。大学時代は黒澤明や小津安二郎、現代中国を代表する映画監督チャン・イーモウさんの作品をよく見た。今年2月にはドイツの劇場を訪れ、日々の生活に市民の観劇が根付いていることに驚かされた。 徳島の高校演劇界は「創作王国」といわれる。独創性のある舞台に恵まれているからだ。吉田さんは顧問、脚本家として後輩を育て創作王国を一層盛り上げたいと望み、高校演劇を一般の演劇鑑賞の入り口にする夢を持つ。