TPPで著作権保護が「死後70年」に延長したら?「非親告罪化」にも懸念
アメリカの事情と賛否分かれる日本
アメリカが他国にも「死後70年」を求めるのは、同国が強大な著作権輸出国だからだ。 ミッキーマウスやスーパーマン、その他数多くの外貨獲得ツールを擁し、2011年度は日本円にして約12兆円を稼ぎ出している。 一方、国際的に人気のマンガやアニメを抱えるクール日本は約6000億円の入超、つまり赤字だ。 著作権保護期間の延長については、日本国内でも意見が分かれているが、その議論は現在に始まったことではない。2006年には日本文芸家協会や日本音楽著作権協会(JASRAC)など16団体が共同で、文化庁に「死後70年」への延長を求める要望書を提出している。当時の賛成派・反対派の各論調はそのまま現在にもあてはまる。 賛成派の論拠は、まず保護期間延長が創作者のインセンティブになること。もちろん著作権者やその遺族、さらに管理団体にとって著作権料を受け取れる期間が延びることは大きなメリットだ。また、欧米主要国が死後70年を採用している以上それが世界標準であり、歩調を合わせない限り著作物の国際的な流通に齟齬をきたすともいう。 対して反対派は、保護期間が70年に延長されても、その恩恵を被るのはごく一部の有力コンテンツのみと主張する。刊行物の98%は著作者の生存中に絶版になっており、それらの再利用、ネット上でのアーカイブスや電子図書館の運営にも支障をきたすとの見方だ。保護期間が長くなるほど相続関係が複雑になるため、交渉にかかる手間やコストなど有形無形の負担増から大多数の作品は死蔵される可能性が高い。視聴覚に障害を持つ人向けや研究目的での利用にも制約を受けかねないとしている。 その著作権交渉複雑化について、賛成派は、一括して許諾を取りやすくするシステムやデータベースの整備によって円滑化できると主張する。
「死後70年」に延長されると、どんな影響が?
著作権の保護期間が「死後70年」に延長された場合、それ以降の20年間は新たに著作権切れの作品(パブリックドメイン)となる作品がなくなる可能性がある。 たとえば、1970年11月に没した三島由紀夫の作品は、現状では2020年12月31日に著作権が消滅するが、20年延長となった場合、氏の作品を自由に舞台化・映画化できるのは2041年1月1日以降。手塚治虫(1989年没)作品の保護期間は、現在の2039年12月31日から2059年の12月31日に延びる。作品の二次利用にも前述のような負担増が発生するわけで、停滞が懸念されるのはそのためだ。 ちなみに、白雪姫やオーロラ姫、シンデレラやアリエルなどディズニーアニメのプリンセスたちは、みな二次利用の産物だ。 すでに保護期間を過ぎた作品については、「法の不遡及」の原則から、著作権が復活する可能性は少ないとみられるが、1998年の著作権延長法により、アメリカやオーストラリアでパブリックドメインをネット上のライブラリーに公開する試みが滞った例もある。 インターネット上の無料電子図書館・青空文庫も、「改正された法律が過去に溯って適用されないのが原則であることを十分承知したうえで、遡及延長がありえる事態」として警戒を強めている。