TPPで著作権保護が「死後70年」に延長したら?「非親告罪化」にも懸念
前述のように著作権保護は「相互主義」を原則としているため、日本が「死後50年」と定めていれば、他国での日本のマンガ作品の保護期間も50年に限られる。 20年延びれば、その著作権料で外貨獲得の機会が増えるとするのが延長賛成派の論。一方、反対派は、延長になってもアニメの保護期間が切れるのは先であり、輸入超過による赤字は累積し続けると主張する。国際標準に関しては、米国の著作権も70年で統一されているわけではなく、該当するのは1978年以降に発表された作品のみ。異なる期限が混在することによる現実的な齟齬はない、との見解だ。
「非親告罪化」は杞憂か
もうひとつ、争点と考えられているのが「著作権侵害の非親告罪化」だ。 現在、日本では著作権者の申し立てがなければ、警察や検察は著作権の侵害を取り締まれない。非親告罪となれば、著作権者の告訴なしに、警察や検察独自の判断、あるいは第三者による告発だけで摘発されるようになる。 日本の場合、同人誌やコミックマーケットなどの二次創作に対する著作権者の「お目こぼし」や、版元の戦略的な事情からそれらを見逃すケースは少なくない。そうした阿吽の呼吸が難しくなりかねないし、コスプレなど趣味の領域が侵される可能性もある。国旗国歌法や個人情報保護法に対する過剰反応の前例があるだけに、こちらも杞憂とは言い切れない。 2006年の論争時は、旧作品の流通や二次創作の障害になるとの理由から保護期間の延長は見送られたが、包括的協定であるTPPの交渉は農産物その他との「抱き合わせ」だ。 振り返れば、70年代の繊維やオレンジ、80年代の自動車や半導体、90年代の包括協議などなど日米の経済交渉は「日本の譲歩の歴史」でもある。日本が「聖域」と位置づけるコメや牛・豚肉など5品目をはじめ農産品については「断固譲れない」として、関税を維持する方向で交渉が進むかもしれない。そのとき、知的財産、とりわけ著作権の保護期間延長が取引材料となる可能性は否定できない。 *無名・変名の著作物や団体名義の著作物は公表から50年、映画やアニメは公開から70年。 (文責・武蔵インターナショナル)