【NBA】ケガによる衰えだけでなく時代にも取り残されたデリック・ローズ、それでも偉大な存在感を放ち続けたキャリア
NBAの戦術がトランジションと3ポイントシュートに移行
2008年のNBAドラフトで全体1位指名を受けてブルズの一員となったデリック・ローズは、2年目にオールスターに選ばれると、そのオフにはアメリカ代表として世界選手権で金メダルを獲得。爆発的なクイックネスから生み出される力強いドライブアタックで多くのファンを魅了し、瞬く間に人気者になると、3年目には史上最年少の22歳でシーズンMVPを獲得します。ローズは2010年代の『NBAの顔』として君臨するはずでした。 ローズのドライブは誰にも止められないスピードとパワーを兼ね備えていましたが、それは皮肉にもローズ自身も止めることができず、その膝に蓄積されたダメージは左膝前十字靭帯断裂という大ケガへと繋がりました。長期に渡るリハビリから復帰したかと思えば、今度は右膝半月板断裂と、そのキャリアはケガとの戦いの連続となり、キャリア後半はチームのオプションとしてベンチからコートに立つのが仕事になってしまいました。 ケガによる『衰え』がローズを蝕んだのは間違いありませんが、その一方で2018-19シーズンと2019-20シーズンは30分に満たないプレータイムで平均18得点を記録し、キャリアハイの50得点を記録するなど、ローズの得点能力は大ケガの後でも十分に発揮されていました。しかし、ローズのケガ前と後ではNBAの戦術自体が大きく変化しており、それはローズのプレースタイルには合わないものでした。 ローズがMVPを取った2010-11シーズンと昨シーズン(2023-24シーズン)を比較すると、平均得点は99.6から114.2に、3ポイントアテンプトは18.0から倍近い35.1に、そして得点効率を示すオフェンスレーティングは107.3から115.3まで上昇しています。トランジションと3ポイントシュートを活用した戦術の一般化によるオフェンス力の向上は目を見張るものがあります。 ローズに代わって2010年代の『NBAの顔』になったステフィン・カリーは、ローズのようなクイックネスもパワーも持ち合わせていませんが、運動量と卓越したシュート力でオフェンス戦術そのものを変えました。オンボールだけでなくオフボールでも動き回るカリーを追いかけるのが難しいのはもちろん、カリーを追いかければインサイドが空いてしまいイージーシュートへと繋げられてしまいます。 個人で点を取るだけでなく、チームへ相乗効果を生み出すことでオフェンスで勝ちきっていく。カリーはそのスタイルの正当性を4つのチャンピオンリングで示したのです。 MVPシーズンに55.0%だったローズのトゥルーシューティングは、昨シーズンも54.0%と得点効率だけ見れば特に落ち込んだわけではありません。しかし、昨シーズンのMVP二コラ・ヨキッチは65.0%を記録しており、バスケットの常識が大きく変化した中で、ローズ自身は変わっていなくても、相対的には得点効率の悪い選手になっていました。 爆発的な突破力を誇っていたローズに合わせたチーム作りをしていれば、ローズ自身の得点効率が低いことは大きな問題ではなかったでしょうが、シュート力と運動量が求められる時代にロールプレーヤーとして生き抜くのは厳しいものがありました。 『もしも』は禁句ではあるものの、もしもローズがケガをせずに『NBAの顔』としてリーグに君臨し、チャンピオンリングを何個か手にしていれば、オフェンス戦術の変化は起きなかったかもしれません。戦術的な革新の流れは誰にも抗えないものですが、そんな妄想を抱くほどにデリック・ローズの存在感は大きなものでした。