ザックJ、優勝の裏に見えた未来
柿谷の正確なフィニッシュワーク
その一人はおそらく、韓国戦で2ゴール、今大会通算3ゴールをマークした柿谷曜一朗になるだろう。 韓国戦の1点目は、青山敏弘のパスに反応してディフェンスラインの裏に抜け出し、ドリブルで持ち込む得意の形から。中国戦ではこれと似たシチュエーションで外してしまったが、今回は確実に決めてきた。 2点目は左サイドを突破した原口がシュートを打つ瞬間、「走り込むか、止まって待つか」という判断で、後者を選択。GKに弾かれてこぼれたところを左足で蹴り込んだ。この試合で柿谷が放ったシュート数は2本。そのいずれをもモノにした決定力と、正確なフィニッシュワークは、ザックジャパンにとって大きな魅力だ。 「点を取ることが仕事だけど、それができたからオーケーかというと違うと思う。身体を張ってボールを収める、ファウルを貰う、しっかりキープするという部分がまだできていない」 課題についてそう語ったが、もし、ウルグアイ戦のメンバーに選ばれたとしたら、活躍できるかどうかは、周りとのコミュニケーションに懸かっている。 中国戦で柿谷のゴールをアシストした槙野は、「どんなクロスが欲しいのか訊ねたら、GKとDFの間に速いボールを下さいって言ってきた」と語り、実際、要求どおりのクロスでゴールをお膳立てした。 韓国戦の1点目をアシストした青山も、「曜一朗とはコミュニケーションを取ってきて、どんなボールが欲しいのか理解している。動き出しが良いのは分かっているので、狙っていた」と振り返った。 今大会では、初めて一緒にプレーするメンバーばかりだったため、「コミュニケーションを密に取り合ってきた」と槙野は言った。だから、短期間でも「生かし」「生かされる」関係を築くことができた。 だが、ウルグアイ戦に選ばれれば、常連組に混じることになる。試合に出られるかどうかも分からない状況で、どれだけ自分のスタイルを理解してもらえるか……。 現在、常連組のセンターフォワードでコンスタントに選ばれているのは、前田遼一とハーフナー・マイクのふたりだけ。6月のコンフェデレーションズカップでは、ハーフナーは途中出場が1試合。前田もブラジル戦ではスタメンから外されている。メンバーが固まっているザックジャパンにあって、柿谷が務めるセンターフォワードは食い込む余地が残されている、数少ないポジションだ。 その点で、オーストラリアとの2戦目のあと、指揮官から「前線のキープ、ポストプレー、ヘディングの落とし、ゴールに向かっていくプレーなど、本当に良くやってくれた」と称賛された豊田陽平も、可能性は十分ある。 セカンドトップやサイドもできる柿谷とは異なり、1トップのスペシャリストとして安定したポストワークと得点力に期待が集まる。 ほかにも今大会では、攻守におけるハードワークとダイアゴナルの飛び出しを見せた工藤壮人が岡崎慎司のバックアッパーとして名乗りを挙げ、切れ味の鋭いドリブルとシュートテクニックを見せた齋藤学が乾貴士のライバルとして存在感を示し、空中戦での強さと攻撃の起点となる縦パスで森重真人が今野泰幸のバックアッパー、パートナーとしてアピールに成功した。 振り返ってみれば、中田英寿(98年)、戸田和幸(02年)、鈴木隆行(02年)、本田圭佑(10年)らは本大会の1年前あたりに、足りなかった最後のピースとして日本代表に加わり、チームをさらなる高みへと導いた。ブラジル・ワールドカップでザックジャパンを救うのは、柿谷や豊田、森重であっても、不思議はない。 (文責・飯尾篤史/サッカーライター)