フェアーグラウンド・アトラクションが語る、再結成と36年ぶり新作で見つめ直した「絆」
慈しみに満ちたサウンドの背景
―今回のアルバムの制作にあたって、前もっての何らかのコンセプトはありましたか? マーク:僕らは自分たちのやることをやっただけだね。あまり多くを考えずに始めて、曲ができあがって「わあ、いいぞ!」という感じだった。5日間で17曲を録音したんだ。 エディ:ロイには、彼の求めているドラムスのサウンドがあったと思うけど、私は完璧すぎないように、完璧にはちょっと足りないものを求めた。聴き返して、そこに感情が充分に感じられれば、私にはそれで出来上がりだったわ。 ―前作になかった新しい要素に、数曲でのホーン・セクションの導入があります。これらの曲に関しては、最初から編曲のアイデアがあったんですね。 マーク:僕が大ざっぱな編曲を考え、ホーンに関してはキック・ホーンズの面々にまかせた。エリック・クラプトンからザ・フーまでとやっている売れっ子のホーンなんだよ。 エディ:私は彼らが有名アーティストと仕事をする前から、(エディがバック・コーラスの仕事をしていた)85年くらいからの知り合いなのよ。 ―そんなホーンの導入もあって、ソウルやゴスペルの影響もいくらか発見できますね。 エディ:そうね。でも、サウンドのことよりも、前作との違いは、あのアルバムがロマンティックで、若者の未来への希望に満ちていたのに対し、今回は35年経って、ずっともっと「アヴァンキュラー(avuncular:優しいおじさんのようにという意味)」だと思う。もっと賢くなり、若い人たちに助言をしている。泳ぎを覚えようとするなら、飛び込まなくちゃいけないとか、何か素晴らしいことが起こるから、暗闇を心配するなとかね。 ―「ア・ハンドレッド・イヤーズ・オブ・ハートエイク」と「ヘイ・リトル・ブラザー」の2曲に「家に帰る」という行が出てきます。もちろん、このバンドの再結成こそがあなたたちにとっての「家に帰る」ですが、エディ、あなたは90年代に故郷グラスゴーに「家に帰り」、自国スコットランドの文化や伝統に改めて向き合ったことがそれ以降の人生と音楽に大きな影響を与えましたね。 エディ:ええ。とても重要だったのは、(スコットランドの国民的詩人)ロバート・バーンズの曲を歌い始めたことだったけど、彼の作品集を作ったとき、自分の姿勢としてはマークの曲を歌うときとまったく同じことをしていると理解した。(18世紀に生きたバーンズに比べて)マークの世界に立ち戻るのはそんなに難しくない。同じ時代にこの惑星で生きているからね。でも、300年後の人びともマークの曲を聴き続けると思うわ。だから、私は歌手というよりも、曲を届ける郵便配達人のようだと感じているの。マーク、私はいつもあなたの曲がたくさんの人たちに聞かれるべき価値があると思っていて、その範囲を広げたい。それと、離れていたことで教えられたことがもっと良い歌手にしてくれた。私は35年間離れた場所に行く必要があった。そこで学んだことでもっと良い歌手になって、マークの曲に帰ってくるためにね。 ―マークはどうですか? この35年間に実際に、音楽的に、比喩的に「家に帰る」体験は何かありました? マーク:家というのは究極的に自分の心のある場所だよね。音楽的には、エディ、ロイ、サイモンが僕の家族なんだ。 エディ:私はとても幸運だわ。彼のようなソングライターが、世界にたくさんいる歌手のなかから、バート・バカラックがディオンヌ・ワーウィックを見つけたように、私を自分の歌のヴィークル(車などの輸送手段)に見つけてくれたことにね。 --- フェアーグラウンド・アトラクション 『ビューティフル・ハプニング』 2024年9月20日発売 12曲+ボーナストラック2曲収録 ピクチャー・ディスク仕様/解説・歌詞・対訳付
Tadd Igarashi