包丁で威嚇、悪口をファクス…自治体職員へのカスハラ深刻 福岡県3割の部署で確認
住民が自治体職員に無理な要求や過剰なクレームを繰り返すカスタマーハラスメント(カスハラ)が九州各地で深刻化している。窓口で暴言を吐かれたり、電話で長時間苦情を言われたりしている実態が幅広い部署で判明。対応マニュアル策定や通話録音などの対策に乗り出す自治体が増えている。識者は「自治体はカスハラに毅然(きぜん)と対処するという行動指針を示す必要がある」と指摘する。 【写真】庁舎の廊下に掲示してあるカスハラ対応策の貼り紙 「ファック ユー(くたばれ)」。10月、九州のある自治体で窓口業務を担当する50代女性は、住民票を取りに来た男性から罵声を浴びた。「書くのが面倒くさい。代筆して」と求められ、「本人が書く決まりになっている」と答えると激高した。上司に交代しても男性の怒りは収まらず、机をたたき、ボールペンを投げつけてきた。こうしたカスハラは「日常的にある」といい、「抑止するために防犯カメラを設置してほしい」と訴える。 数年前に生活保護を担当した40代男性は、住民に申請書の不備を指摘すると、自分の悪口を書いたファクスを別部署に送りつけられた。同僚の女性職員は、訪問先で住民に「病院にタクシーで行きたい」と言われ、「タクシー代は支給できない」と答えると包丁を畳に突き刺して脅された。「こんなんじゃ続けられない」と女性は退職。心を病み休職する人もいるという。 暴力団の名前を出して脅す人、ネクタイをつかんで怒り出す人…。カスハラの実態はさまざまだ。
SNSで氏名検索され…
カスハラは小売や外食産業などで社会問題化し、対策を講じる企業が増えている。一方、自治体は生活保護など命に関わる問題を扱う上、職員の住民奉仕の意識も強く、対応が遅れがちだった。全日本自治団体労働組合(自治労)が2020年に福岡、大分など16都道県の職員を対象にした調査によると、回答した1万4213人のうち46%がカスハラを受けていた。「職場で受けた人がいる」を合わせると76%に上った。 福岡県では20年4月~23年6月に、全部署の約3割の56部署で計168件のカスハラが確認された。県は今年3月、対応マニュアルを策定。長時間執拗(しつよう)な同様の主張や要求の繰り返し▽長時間の居座り▽威嚇・脅迫行為▽過度な謝罪の要求▽交流サイト(SNS)による職員の誹謗(ひぼう)中傷-など県がカスハラに該当すると判断した場合、電話対応の打ち切りや退室を求めることができるようにした。 佐賀市は昨年4月、フルネーム表記だった全職員の名札を名字だけにした。来庁者にSNSで氏名を検索され「○○に行っていたよね」と話しかけられる事例などがあったためだ。今年9月からは一部の課で、電話応対の内容を試験的に録音する取り組みも始めた。 北九州市では窓口業務を担う区役所から「カスハラの基準を示してほしい」との声が出て、8月から対策の検討を始めた。担当者は「SNSの普及もあり、感覚的に増えている」と言う。 カスハラに詳しい関西大の池内裕美教授(社会心理学)は「行政の仕事は公平公正が大前提でルールをねじ曲げることはできない。職員のマンパワーにも限界があり、自治体は行政サービス維持のためにも職員の安全を守る必要があると説明し、住民に理解してもらうことが重要」と話す。 (野村創)