死刑当日に執行停止に…全米注目の“娘殺し”の父親は冤罪か?筆者が見たアメリカの死刑 薬物注入で「静かな最期」
死刑執行の瞬間
筆者が立ち会ったのは2012年6月、ミシシッピ州で行われた死刑の執行だ。 マイケル・ブローナー死刑囚(当時23歳)は離婚した元妻の実家に金の無心に訪れたものの、拒否され逆上。元妻、その両親、そして当時3歳だった娘までを射殺した。その後、義母の遺体から結婚指輪を奪い、同居中のガールフレンドにプレゼントしプロポーズするという驚きの行動に出たのだった。 執行当日。立ち会いが認められたミシシッピ州の刑務所に出向いた。人の死の瞬間に立ち会うということに実感が湧かず、前日はぐっすり眠れた。 執行は午後6時。立ち会う記者4人はその6時間前の正午に集合がかかった。 「そのとき」までに2回のブリーフィングがあり、ブローナー死刑囚が何を食べ、どのような様子なのか、事細かな説明があり、「死刑囚が答えるかどうかは分からない」と断りながらも、記者からの質問まで受け付けた。ちなみに、ブローナー死刑囚は“最後の食事”にピザをリクエストし、完食した。 執行まで1時間を切ったとき、記者や立会人は敷地内の「死刑棟」に移動。 その「死刑棟」には1970年代まで使用されていた「ガス室」の煙突が不気味にそびえ立っていて、死刑制度の歴史を感じさせた。 我々が案内された立ち会い室には大きなガラスの窓があり、筆者が中に入るとすでにストレッチャーに横たわったブローナー死刑囚の姿が飛び込んできた。両足、胴体、腕は太いベルトのようなものでストレッチャーに固定され、身動きができない状態。「重大な罪を犯した者」が着用する赤い囚人服と、真新しい白いスニーカーが印象的だった。 壁の穴から伸びた細い管は死刑囚の両腕の手の甲につながり、ここから薬物が注入されることが瞬時に理解できた。 窓ガラスはマジックミラーで、死刑囚から我々は見えていないはずだが、目が合ったような気がして、鳥肌が立った。 そして、最期の時。死刑囚が被害者遺族への謝罪の言葉を口にした後、身体に刺された管がゆらゆら揺れたのが見えた。薬物が注入された瞬間だった。死刑囚は見た目には苦しむことなく、静かに息を引き取った。死亡宣告までわずか18分。彼に殺害された4人が苦しみ、おびえながら突然命を奪われたことを想像すると、あっけないほど静かな最期だった。 死刑執行後、刑務所側が再びブリーフィングを開いた。筆者の「怖いか?Are you scared?」との質問に死刑囚は「I’m not afraid. I’m ready」(「怖くない。準備はできている」)と答えたという。