右WBが「ベストになるかも」日本代表、堂安律の進化。「守備がうまいね」と言われるまでのストーリー【コラム】
日本代表は11日、FIFAワールドカップ26アジア2次予選・グループリーグB組第6節でシリア代表と対戦し5-0で勝利した。この試合で右WBとして出場した堂安律はゴールを決めるなど躍動。勝利の立役者となった。今では当たり前のようにハードワークを続ける堂安だが、10年前はその重要性を理解していなかったという。彼はいかにして、守備でも貢献できる選手へと変貌を遂げたのだろうか。(取材・文:元川悦子) 【動画】サッカー日本代表、最新のゴールがこれだ!
●注目ポイントとなった堂安律のWB起用 9月にスタートするFIFAワールドカップ26・アジア最終予選前、最後の強化の場となった11日のシリア戦。日本代表の森保一監督は前日会見で予告していた通り、攻撃的3バックのテストを継続。スタートはこのシステムを採用した。 このうち、注目点の1つとなったのが、堂安律の右ウイングバック起用だ。 「3バックをやるに当たって、攻撃的な選手をウイングに置けば、より攻撃的になりますし、自分はWBもできるんで、そこは楽しみなオプションだと思います」と、背番号10は6日のミャンマー戦後にも大外のポジションに意欲を示していた。 広島に来てからも「僕はスピードでサイドを切り開いていくタイプではないので、ポジショニングやパスの精度でゲームコントロールすることが大事。『ザ・ウイングバック』というスタイルではないけど、マンチェスター・シティを見ていても、(ベルナルド・)シウバが右サイドにいることで、スピードがなくてもボールが回っている。自分がやるとしても、シャドーの誰かやボランチ、センターバック(CB)の右と絡んで支配したい」とより踏み込んだ発言をしており、今季フライブルクで開拓した新境地を代表にも持ち込みたいと熱望したのだ。 今回、森保監督は堂安の周囲に1トップ・上田綺世、右シャドー・久保建英、右ボランチ・田中碧、右CB冨安健洋という慣れ親しんだ同世代を配置。これも本人にとってやりやすい要素になったはず。特に久保とは東京五輪時代から近い距離でポジションを入れ替えながら躍動感を示してきた。その時は4-2-3-1の右FWとトップ下という関係がメインだったが、微妙に立ち位置が変わる中で2人がいかにして連係・連動を示すのか。それも見逃せないポイントだった。 ●ハードワークを「やってないやつがダメだと思ってる」 今回も左WBに中村敬斗が入ったため、ミャンマー戦に続いて左寄りの攻めが増えるという見方もあったが、今回は開始早々から右サイドでグイグイと押し込むシーンが目立った。堂安は開始4分、久保との絡みからいきなり豪快な左足シュートを放つと、12分には堂安のスローインから2人でチャンスをクリエイト。この直後に上田が先制点を挙げると、よりリラックスしてプレーできるようになったのだろう。 そして迎えた19分、堂安に歓喜の瞬間が訪れる。GK大迫敬介が左の大外にいた中村にフィードを出したのが始まりだった。次の瞬間、彼が中央にいた久保に絶妙のパス。久保が一気にドリブルで持ち上がったのに呼応し、背番号10は右からゴール前に上がり、ボールを受けるとDF2人に向かって仕掛け、針の穴を通すような左足シュートをお見舞い。これをゴール右隅に決め切り、2-0とリードを広げることに成功したのだ。 「ビルドアップのところで敬斗のいいフリックから建英が空くというのは練習からやっていたこと。シュートシーンに関しては、外に開くとGKが確実にファーに来ると警戒しているんで、ニアに速いシュートを通せば入るかなって感覚があった」と本人も狙い通りの一撃だったことを明かす。 さらに日本はこの3分後にオウンゴールで3点目をゲット。早々と勝負を決める形になった。それでも、彼らはその後も気を抜くことなくプレー。堂安自身も攻守両面にハードワークをし続けた。時には最終ラインまで下がって冨安をカバー。森保監督が「うまい選手がハードワークして、攻守ともにチームに貢献するということを少年少女や日本代表を目指している選手たちに示してほしい」と求めた通りの献身的な動きを披露したと言える。 「ハードワークに関しては、最低限、やらなきゃいけないこと。評価してくれるのはもちろん嬉しいですけど、俺からすると、やってないやつがダメだと思ってる。そこは現代サッカーのベースなんで」と強調するように、高い意識を持って取り組んだのである。 実は堂安はガンバ大阪ジュニアユース時代、そしてU-16日本代表として2014年AFC・U-16選手権(タイ)に参戦した頃、左サイドバック(SB)で起用されたことがある。当時も守備タスクは要求されていたが、彼自身はその意味をよく理解していなかったという。 ●「これで調子に乗ったらアジアカップみたいに…」 「あの時はハードワークの重要性には気づいていなかったですね。(監督の)吉武(博文)さんのサッカーには賛否両論がありましたけど、今、少しずつ彼の言ってることを理解できている。当時の吉武さんはSBが中に入ることも言っていたし、ちょっと先に行っていたのかな」としみじみ言う。 10年前のアジア予選で彼らは韓国に敗れて世界切符を逃したが、冨安、田中碧含めて3人が現代表として攻撃的3バックのけん引役になっているのは特筆すべき点。堂安も献身性の素養を当時から養っていたはずだ。 その後、ガンバ大阪、フローニンゲン、PSV、ビーレフェルト、フライブルクと環境が変わり、サッカースタイルや要求される仕事も変化したが、堂安が攻守両面の幅広い役割をこなせるアタッカーに変貌したのは事実だ。「ドイツに行って一番変わったこと? フライブルクでは守備の選手が(僕に)『守備がうまいね』と言っているんで(笑)、相手が何をされたら嫌か分かるのかなと。これからキャリアを重ねていくうえで、ここ(右WB)がベストポジションになるかもしれない。楽しさを見つけながらやっていきたい」と彼自身も大いにやりがいを覚えている様子。その布石をシリア戦前半に打てたのは朗報だ。 後半になって日本は4バックにスイッチ。堂安も代表でやり慣れた右FWに陣取ったが、久保、南野拓実と臨機応変に立ち位置を変えたり、中に入ったりとより攻撃を意識して、フルタイム出場。日本の5-0の勝利に貢献した。 この2連戦で彼は右シャドー、右WB、右FWの3つのポジションをスムーズにこなし、最終予選に弾みをつけたと言っていい。とはいえ、来季のフライブルクは指揮官が変わるため、どういう扱いをされるか未知数なところもある。最終予選になれば、2次予選とは比べものにならないほど対戦相手のレベルも上がる。そのあたりを踏まえながら、今回やったことをよりブラッシュアップさせることが必要になるだろう。 「厳しく言えば、今回のシリーズは勘違いしちゃいけない。それを自分たちに言い聞かせなくちゃいけないし、これで調子に乗ったらアジアカップみたいにやられちゃう。あの悔しさは自分も痛いほど分かってますし、今日もハーフタイムに厳しい声をかけ合った。みんながよくなろうと一緒にやってるんで、(この先を)楽しみにしてほしいですね」 いかにも彼らしい言い回しで楽観ムードに警鐘を鳴らした堂安。日本の10番には、ハードワークと凄みを兼ね備えた絶対的エースになってもらわないと困る。ここからの大いなる進化に期待したい。 (取材・文:元川悦子)
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