ルイ・ロデレール、感情を揺さぶる唯一無二のシャンパーニュ「クリスタル・ロゼ」とは
2024年10、11月は大手メゾンのCEOや最高醸造責任者が続々と来日。創立以来の伝統を守り、最高のものをつくり続ける彼らに、ブランドの過去、現在、未来について話を聞いた。ルイ・ロデレール編。 【写真】ルイ・ロデレール「クリスタル・ロゼ 2014」
100%自然有機農法のネイチャーファーストなシャンパーニュ
ルイ・ロデレールの「クリスタル」が誕生したのは1876年。時のロシア皇帝(ツァー)アレクサンドル2世の要望からだった。一説にはバカラ製とされる無色透明のクリスタルガラス瓶にシャンパーニュを詰めたのは、常に暗殺の危機にさらされていたツァーが毒の混入を見破るため。なおかつビン底を真っ平らにしたのも、小型の爆弾が仕掛けられるのを防ぐためといわれている。 それからおよそ100年後の1974年に、初めてつくられたのが「クリスタル・ロゼ」だ。2024年は誕生から50周年を迎える節目の年にあたる。 「当時のロゼは、世間ではまだまともなシャンパーニュと思われていませんでした」と語るのは、ルイ・ロデレールの副社長で最高醸造責任者を務めるジャン=バティスト・レカイヨン氏。 「ブレンドでは赤ワインの渋味成分が白ワインと完全に融合しません。そこでタンニンまで素晴らしく熟すアイのピノ・ノワールと、エレガントでミネラリーなアヴィーズとメニル・シュール・オジェのシャルドネを、一緒に醸造する混醸という技術を用いました」 この手法は熟期の異なるピノ・ノワールとシャルドネを同時に収穫しなければならず、タイミングの見極めが実に難しい。「クリスタル・ロゼ」がレアで高価な理由のひとつだ。「クリスタル・ロゼ」の注がれたグラスを愛でながら、7代目社長のフレデリック・ルゾー氏は言う。 「人々の感情を揺さぶるシャンパーニュをつくることこそルイ・ロデレールの哲学。この土地をピュアな形で表現し、唯一無二のシャンパーニュに仕上げることが私たちの使命です」 ルイ・ロデレールも1776年から続く家族経営のメゾン。ゆえに目先の数字に左右されることなく、長期スパンで経営にあたることが可能という。 「私たちにとって最高のツールは“時間”です。その単位も何日、何年ではなく何世代。それがブドウ畑やシャンパーニュづくりにも反映されています」(ルゾー氏) 2000年にビオディナミ農法(自然有機農法)への挑戦を始めたのがその一例。気候条件的に厳しいシャンパーニュ地方では、普通の有機農法すら難しい。しかし、困難を克服し「クリスタル・ロゼ」は2007年から、「クリスタル」は2012年から100%ビオディナミ農法のブドウが用いられている。その結果、シャンパーニュを象徴する白亜質土壌の特徴がピュアに表現されるようになった。レカイヨン氏は言う。 「ブドウ畑が生みだすネイチャーファーストなシャンパーニュだからこそ、飲む人の感情を揺さぶることができるのです」 Jean-Baptiste Lécaillon モンペリエの国立高等農学院を卒業後、1989年にルイ・ロデレール入社。カリフォルニアのロデレール・エステートを任され、1994年に帰国。1999年、最高醸造責任者に就任した。 Frédéric Rouzaud パリ=ドーフィーヌ大学で経営学を学び、不動産関係の仕事に就いた後、2006年からルイ・ロデレールの社長に。メゾンはボルドーのシャトー・ピション・ロングヴィル・コンテス・ド・ラランドをはじめ、多数のワイナリーを傘下に持つ。
TEXT=柳忠之