AI時代の音楽クリエイティブの正義はどこにあるのか? ジャスティスに聞いてみた
誰もがAIで音楽を作れる時代にアーティストは何を思うのか? ChatGPTやMidjourneyに代表される生成AIの登場によって、私たちの日常生活にも大きな変化が訪れようとしています。音楽シーンでも、Stable Audioなど音楽生成AIが登場したことで、楽器が弾けなくても自分の頭の中でイメージする音楽をテキストで指示するだけで簡単に作成できるようになりました。 【全画像をみる】AI時代の音楽クリエイティブの正義はどこにあるのか? ジャスティスに聞いてみた しかしその一方で、音楽生成AIには学習ソースとして使用される楽曲やアーティストの音声に関する権利の問題をはじめ、さまざまな課題があります。そのため、今の段階では、アーティストの間でも生成AIの活用の是非に関してさまざまな意見が見られます。 そんな中、フランスを代表するエレクトロニックミュージック・アーティストであり、グラミー賞受賞経験もあるJustice(ジャスティス)がシーンに帰還。今年4月26日に前作から約8年ぶりとなる最新アルバム『Hyperdorama』をリリースしました。 同作は、大物エレクトロニックアーティストのカムバック作として、リリース前から注目を集めていましたが、実はAIをテーマにしたMVを公開しているほか、MVの制作においてもAIを活用するなど、クリエイティブとAIの融合の可能性にも真正面から向き合った作品でもあります。 そこで今回、ギズモードでは音楽シーンでも注目が集まる生成AIの活用の可能性を探るべく、Justiceのグザヴィエ・ドゥ・ロズネさんとギャスパール・オジェさんに話をお聞きしました。
AIは“何に使うか”が大事
──今作では、AIが「Generator」のMVのテーマになっていたり、「One Night/All Night」のMVでもAIを活用したと思われる部分が見受けられます。昨今のAIがクリエイティブシーンでも存在感を増している状況を考えると、今作でお二人が生成AIに真正面から取り組んだのは必然であるようにも感じられますが、生成AIがこれだけ世の中を席巻している状況をどのように感じていますか? グザヴィエ:生成AIに関してはすごく関心があるんだ。でも「Generator」のMVはAIがテーマではあるんだけど、制作に関してはAIを全く使ってないんだよね。一方で「One Night/All Night」では2つのカットでAIを使ったんだけど、それを取り込むのに普通に人間がやるよりもずっと時間がかかってしまったよ。 生成AIが持つ人間では思いつかないランダムな発想とか、そういう部分はすごく面白いから、そういう意味ではめちゃくちゃ興味深いツールだと思うよ。音楽の加工だって、40~50年前からAIがやってくれるようなことと同じことができる技術があるからね。 モジュラーシンセとかシーケンサーもそうだけど、やっぱりランダムに人間が自然に思いつかないものを作ってくれるという点ではすごく面白いよね。だけど、実はそういったツールを自然な形で音楽に取り込むのにはすごく時間がかかるんだ。 だからAIはツールとしては面白いんだけど、何に使うかっていうのが大事なのかなって思うよ。 ──生成AIに興味を持っているとのことですが、実際にChat GPTやMidjourneyといった生成AIを知ったのはいつ頃ですか? グザヴィエ:みんなとだいたい同じぐらいのタイミングで僕らも知ったよ。それから結構自分たちでもいじったりはしているんだ。 たとえば、1カ月前にも自分でChatGPTを使って会話してみたんだけど、面白いのは、とんでもなく変な会話にどんどんなっていくところなんだよね。ChatGPTは絶対に否定しないから、話がどんどん想像もつかないようなことになっちゃうんだ。そういうのが面白いし、楽しんではいるんだけど、それを自分の作品に取り入れるかと言われると、まだそこまでは考えていないかな。 ──AIに限らず、テクノロジーは人間にとって、ある種の宗教のように信仰されている部分があると思いますが、AI時代におけるJUSITICE(正義)、そして宗教はどのようなものだとお考えでしょうか? ギャスパール:人間がテクノロジーにある程度頼っている部分はあるよね。フランスの社会だって日本やアメリカと同じで、新しいテクノロジーがどんどん生活の中に入ってきている。今ではスマホなしでは生活できないし、ネットに繋がっていないと人とも繋がれない、社会性を保てない状態で生きているところは確かにあると思うんだ。 古い人間ほど昔の生活に執着していて、変化を好まない傾向はあるけど、僕らは常にプロセスを大事にしてきた。それは音楽制作でも言えることで、最初はシーケンサーを使っていて、そこからコンピューターを使うようになったけど、新しいものをどんどん取り入れながら音楽を作ってきたんだ。 アルバムやライブの演出を作る上でテクノロジーに頼っている部分はあるよ。ただ、だからといって、テクノロジーを神様みたいに崇めて毎日祈ってるわけじゃない。テクノロジーを理解して受け入れ、最善の形で利用するのを極めていくことが大切だと思うんだ。それと同時に思うのは、テクノロジーこそが世界中の誰もが普遍的に敬意を持てる存在なのかもしれないということだね。 グザヴィエ:でも、宗教とテクノロジーの大きな違いは、テクノロジーは存在が証明できるものだということだよね。だから、効果があるかどうかとか、実際に存在してこういう利点があるということを証明した上で、信じるか信じないかを決められる。 宗教は目に見えないものを信じなければいけないことが多いけど、テクノロジーは現実に起きてることに証拠があって、証明できるんだ。そこが大きな違いだと思うよ。