AI時代の音楽クリエイティブの正義はどこにあるのか? ジャスティスに聞いてみた
AI時代のアーティストに求められるもの
──今作でAIは活用されていますか? もし使っていない場合、その理由と今後使う可能性について教えてください。 グザヴィエ:今作ではAIを使わなかったけど、将来的には使う可能性はあるよ。もちろん、何ができるかにもよるけどね。でも、自分たちがやってることは、AIじゃないにしろ、わりとAIでできることと近いのは確かなんだ。 たとえば、レコードをサンプリングするときに、ある音源を細かく分割して並び替えて、自分たちでは思いつかないようなメロディーを作るみたいなことをやるんだよ。その作業にはランダムな要素という部分があるんだけど、そこが生成AIがやっていることに近いのかもしれないね。 世の中には自分たちが思い描いているテクスチャーとか雰囲気とか、何となくイメージしているものがすでにあるけど、僕らがやっているのは、ランダムにいろいろなことやりながら、そこにだんだん近づけていくという作業なんだ。だから、そのプロセスの中にAIが生成したものを取り入れることも可能なのかなって思うよ。 つまり、自分が求めてるサウンドとかシーケンスとか、いろいろなことを試しながら、正解を見つけていくということだね。その作業の中で、もしかしたら今後、生成AIを試してみて自分たちが思い描いたとおりの結果が出たらそれを使う可能性も十分にあるよ。 ただし、それが人に何か害を与えない限りはだけどね。 ──今後、ボタンひとつですぐに楽曲が生成されるような未来がくると思います。そんな時代において、アーティストであるためには何が求められると思われますか? ギャスパール:今のところAIで作った音楽は、ドレイクがカントリーを歌ったりジョニー・キャッシュがニルヴァーナを歌ったみたいな感じで、楽しいけどすぐ飽きられてしまうというか、一過性のものでしかない。つまり、"使い捨てできるもの"って感じがするんだよね。 ポップスの場合だと、ビジュアルもアバターで、音作りにもAIを使っているアーティストがいるけど、そういうのが好きな人ももちろんいるから、それはそれでいいと思う。 でも、結局は「音楽に何を求めているか?」という個人の問題なんじゃないかなって思うよ。 グザヴィエ:僕らが音楽を作る上で求めてるのは、感性と技術なんだ。でも、今のAIが作る音楽は、既存のものを編集し直したコンピレーションでしかないというか、「ドレイクがマドンナの曲を歌ったらこうなるよ」みたいなものだから、あんまり驚きはないんだよね。 結局、そこに音楽を作る人の感性が反映されてるのか、訴えるメッセージやテーマがあるのかどうかが問題なんだ。昔、マルセル・デュシャンが美術館にトイレを置いて「これがアートだ」って言ったけど、そこには「日常的に使っているトイレがアートになるのか!」という驚きがあったよね。それが彼の訴えるメッセージ性であって、75年後の今でもアートとして成立している。そう考えると、何でもそうだって言えばそれで成立するから、AIにもその可能性はあると思うよ。 ただ、テクノロジーのおかげで誰もがアーティストになれるわけじゃないんだ。たとえば、今はPhotoshopのおかげでみんながグラフィックデザイナーのようなデザインができるようになった。でも蓋を開けてみると、それっぽいものが作れるだけで、本当にすごく腕のいいデザイナーはそう多くはいないよね。 音楽も同じで、音楽制作ソフトとプラグインのおかげで、今は誰でも簡単に音楽を作れるようになったけど、みんなが良い音楽を作っているかというとそうじゃない。近い将来、AIのボタンを押すだけで音楽が作れるようになるかもしれないけど、そこから人を感動させる音楽が生まれるかと言われるとそうじゃないと思うんだ。 結局は土台となる人間の感性とか、その人がどんなメッセージをその作品に込めるかっていうところが大事なんだと思うよ。