31歳俳優が「転売ヤー役」にハマるワケ。なんともイヤらしい言動や態度がなぜか合う
菅田将暉の「相手を見下す」演技の上手さ
そんな真面目で普通、社会性もある青年が主人公ではありつつも、そこはかとなく「相手を見下す」イヤな面が、セリフ回しはもとより、菅田将暉の演技力でこそ表現されているのも、本作の見どころだ。 たとえば、劇中で菅田将暉は、転売業の先輩である窪田正孝に対して、あからさまに先輩をこき下ろすことはしないけど、相手には「コイツ俺のこと舐めてるな」「正直俺のこと好きじゃないだろうな」と伝わるよう意識しながら演じていたそうだ。 さらに、自分の転売業が軌道に乗った後に先輩に再会した時には、「ひとりじゃとても手が回らない状態です。どこかにいい助手っていないですかね。あ、そうだ、先輩みたいなベテランにも参加してもらおうかな」などと「マウント」を取ったりしていて、なんともイヤらしい。 菅田将暉というその人から、いい意味での「野性味」や「不良性」を感じられるため、ストレートにその要素を打ち出した、攻撃的だったり粗野だったり、主体性がある役に大いにハマる。対して、今回のように「表向きは普通」だからこそ、ちょっとした言動に毒を込めていて、相手を見下す態度が透けて見えてしまう役にも合うというのは、意外でもあり、納得もできたのだ。
要領は良いからこそ、普通の人を見下している
また、菅田将暉自身は、「(主人公は)ある程度は上手いこと生きてもいけるタイプなのだとは思います。でも、それでは物足りない自分もいれば、“普通”でいることを小馬鹿にしている自分もいる一ーというラインがより“普通”な気もします。そのキーでずっと歌っていくようなイメージで演じていました」とも語っている。 なるほど、要領は良くて、普通では物足りないからこそ、普通の人を見下しているところもある……そいう人が身近にいると心当たりがある人は多いだろうし、その「あるある」な人物像に菅田将暉はこれ以上ない説得力を持たせていた。 ちなみに、その菅田将暉が「共通言語として事前に観てほしい映画作品はありますか?」と黒沢清監督に聞いたところ、「コツコツと悪事を働く男」の例としてアラン・ドロン主演の映画『太陽がいっぱい』が挙げられたそうだ。なるほど参照元として納得できる主人公像ではあるので、併せて観ても面白いだろう。