考察『光る君へ』36話 運命の皇子誕生!『紫式部日記』にも記された貴族たちの無礼講「五十日儀」で、ついに赤染衛門(凰稀かなめ)に気づかれた?「左大臣様とあなたは、どういうお仲なの」
「このあたりに若紫はおいでかな?」
緊張感から解き放たれて、まひろの部屋を訪れる道長。まひろの和歌、 めずらしき光さしそう盃はもちながらこそ千代もめぐらめ 人々が祝宴で持つ盃と、望月をかけている。この歌は若宮の五日の祝宴で紫式部が詠んだ。 道長「よい歌だ。覚えておこう」 まひろに関することは本当にいつまでも覚えているからね、まひろと道長の人生の節目は、いつも月の光に包まれている。 一条帝の土御門殿への行幸。彰子が青い色を身に着けている!「私が好きな色は、青」。 ああ、本当に自分の心を表せるようになったんだね……喜ばしい。 そしてこの日は、敦成(あつひら)となづけられた親王の五十日儀(いかのぎ)と祝宴!! これは歴史に刻まれたパーティーである。映像化されて、古典文学ファン・歴史ファンとして、嬉しくてたまらない。 貴族たちの無礼講。そう、この酔っ払った皆の様子も、事細かに『紫式部日記』に記されているのだ。 すみっこの柱のあたりで女房に下ネタの冗談を大声で言う隆家(竜星涼)。それを聞いてもとがめない道長の様子。泥酔して女房たちのいるあたりに乱入し、ひんしゅくを買う顕光。 贅沢禁止の勅令が守られているか、酔いながらも女房の衣の枚数を数える実資(秋山竜次)。そして、ついに! ついにその瞬間が! 酔っぱらった公任の 「このあたりに若紫はおいでかな?」 (このわたりに若紫やさぶらふ) このレビュー5回で、公任の軽口が史実を我々に伝える重要なエピソードがあると書いた。この一言がまさにそれだ。 この声かけをしてくれたおかげで、そしてそれを紫式部が書き留めたおかげで『源氏物語』がこの寛弘5年9月の時点で少なくとも『若紫』まで書き進められており、更にそれが貴族……女性だけでなく男性の間でも読まれていたということの歴史的証明となった。それが映像で見られて、大興奮である。 この言葉、ドラマではまひろと赤染衛門という中年女性を前に「若紫のような姫……若い女はいないなぁ」というセクハラ台詞として扱われているが「このわたりに若紫やさぶらふ」は「君の作品を読んだよ。若紫のあたりは中国の物語『遊仙窟』をベースにしてるよね?」という問いかけにもなっている、という説がある。 それはともかく「ここには光源氏のような殿方がいないのだから、若紫だっているはずがない」は『紫式部日記』では心の中で思っただけであるが、まひろは直接言い返す!さすがまひろ! 言ったれ言ったれ! ……と、まひろと公任が向き合っているのを見た道長が軽い嫉妬からか、ついやらかしてしまう。「なんぞ歌を詠め」 いかにいかが数えやるべき八千歳のあまり久しき君が御代をば (親王様の五十日──いか……から、どれだけ数えればよろしいでしょう。何千年も、永遠にも続くでありましょうご治世を) すらすらと即興で詠むのに合わせ、まひろの隣に座った道長も詠む。 あしたづの齢しあらば君が代の千歳の数もかぞえとりてむ (私に鶴のように千年もの寿命があれば、千年先までご治世の年を数えるだろう) 皆が感嘆の声を漏らす中で、顔色が変わる女性陣……あのですね、殿方は皆したたかに酔っているけれども。おなごは全員シラフなんですわ。観察眼も思考力も鈍ってはいないのですわ。特にもともと聡い倫子が、まひろと道長の間に流れる呼吸を察せぬはずがない。赤染衛門の厳しい表情もそれを物語る。 まひろに合わせて巧く詠んだとばかりにフフッと軽く微笑んでいた道長も、席を立った倫子を見てさすがにまずいと気づき、後を追う。やっちまった……。 『紫式部日記』にも、実際に倫子が不機嫌になり祝宴の席を立つ様子が描かれる。ただし、酔った道長の「倫子の幸運は私のような男と結婚したこと」などの冗談に怒ったとある。超有名な公任の一言から道長の嫉妬へ、そこから有名な紫式部と道長の和歌につなぎ、更に倫子の不機嫌へと。史実と虚構の組み立てが面白い。 誰もいない廊下で、まひろに赤染衛門先生から、 「左大臣様とあなたは、どういうお仲なの」 ば、バレた……いやバレないほうがおかしい。でも赤染衛門先生のことを信じてる。変な怒られ方ではないはず! 次週予告。 紙を選んでる! 楽しい冊子作り。賢子(梨里花)が大きくなっている、そして反抗期を迎えて母娘の関係が更に難しくなっている。次の東宮でざわつく朝廷。清少納言の読書レビュー!『源氏物語』は三十三帖では終わりません。 37話が楽しみですね。 ******************* NHK大河ドラマ『光る君へ』 脚本:大石静 制作統括:内田ゆき、松園武大 演出:中島由貴、佐々木善春、中泉慧、黛りんたろう 出演:吉高由里子、柄本佑、黒木華、見上愛、塩野瑛久、岸谷五朗 他 プロデューサー:大越大士 音楽:冬野ユミ 語り:伊東敏恵アナウンサー *このレビューは、ドラマの設定(掲載時点の最新話まで)をもとに記述しています。 *******************
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