考察『光る君へ』36話 運命の皇子誕生!『紫式部日記』にも記された貴族たちの無礼講「五十日儀」で、ついに赤染衛門(凰稀かなめ)に気づかれた?「左大臣様とあなたは、どういうお仲なの」
后の妊娠出産はまさに国家事業
そして、吉高由里子のナレーションと共に始まる『紫式部日記』に描かれた場面の再現。 うとうとしていたまひろのすぐ隣にあった菊の花と真綿は、9月9日の重陽の節句の風習によるもの。前日の夜から菊の花の上に綿を置いて露を含ませ、節句の日にそれで顔を拭いて若返りの効果を狙うという。これについて『紫式部日記』には、倫子と紫式部の間のやり取りが記されているのだが、今回はそれはなかった。もしかしたら今後どこかで登場するかもしれないので、楽しみに待とう。 白で統一された調度の中で、こちらも白一色の装束で陣痛に襲われた彰子に付き添う母・倫子と宰相の君(瀬戸さおり)。土御門殿には既に数か月前から安産祈祷のために僧侶が集められていたが、更に都まわりの名のある全ての寺院から徳の高い僧侶を招き、加持祈祷を強める。陰陽師もいる限りの人数を集結させる。 御物怪うつりたる人々(略)験者あづかりあづかりののしりゐたり (物の怪を憑依させた寄坐が、調伏担当の修験者を罵っている) 暴れる寄坐(よりまし)! 祈祷だけでなく物理的に押さえつける験者! 響く金切り声や物音! 鬼気迫る中、長時間に及ぶ祈り。左衛門の内侍の「もういやっ!」という言葉は不謹慎だが、ちょっとわかる。 おどろおどろしい雰囲気に「帰ろうかな」とおののく右大臣・顕光(宮川一朗太)の気持ちも、少しわかる。 怯えながらも読経に参加する道綱、本当にいい人だね……。 魔除けに弓の弦が引き鳴らされ、人々の上に散米(うちまき)が撒かれ……。『紫式部日記』にも「いと騒がし」とある通り、やかましいのなんの。 倫子が「うるさいわね」と微笑みながら娘を励ます。僧侶も陰陽師の閣僚も女房たちも、みんな集まってのお産。后の妊娠出産はまさに国家事業である。 23話で、中宮・定子が清少納言とふたりきりで迎えたお産。あの場面を観たときは、おそらく後に彰子との対比となるだろうと予想したが、いざこの36話を見ると、皆に守られているというよりは政治的に扱われ過ぎて彰子が少し気の毒になってしまうのだ。対して、静かに清少納言に「ありがとう」と心からの感謝を伝え、主従ふたりで笑い合えた定子は、かけがえのない時間を得られたのではないかと思う。 このときとばかりに、離れた邸宅から彰子とおなかの御子を呪詛する伊周……! 今まで同じ呪詛を道長にかけて全く効かなかったのだから、諦めるか呪詛の方法を変更するかしたほうがいいと思う。せめて呪文を変えるとか。「八剱(やつるぎ)や……」こっちが覚えちゃうくらい何回も聞いてるし。いや、呪いが成就しても嫌なんだけど。 皆の願いと祈りが通じたのか、呪詛が破られたのか。無事に生まれたのは皇子。 ホッとするまひろと女房ズ、威儀を正す廷臣たち。わぁっと喜ぶ道綱、一条帝の女御・元子(安田聖愛)の父として落胆する顕光、泣いちゃう百舌彦(本多力)。みな様々だが、とにかく母子の無事を喜ぼう。 その中で「皇子であったか……皇子……」と茫然とする道長……その顔の半分が濃い闇に覆われる。32話の「光が強ければ闇も濃くなる」という安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)の台詞を思い出した。娘が帝の后となり皇子が生まれる。平安貴族にとって、これ以上はないであろう強い光だ。その光は道長の心に何をもたらすのだろう。
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