2024年夏ドラマは終盤戦に突入「最後まで見逃したくない作品」5選
日本テレビ系『降り積もれ孤独な死よ』
(日曜午後10時30分) 虐待を受けている子供ばかり集め、育てていた男がいた。灰川十三(小日向文世)である。この最初の設定からして近年のドラマとしては斬新だった。 灰川の屋敷で13人の子供の監禁死体遺棄事件が起きる。主人公の刑事・冴木仁(成田凌)が捜査に着手。灰川が容疑者として逮捕されたものの、留置場内で自死する。 灰川には誰かを庇ったフシがあった。真犯人は灰川の実子で冴木の後輩刑事・鈴木潤(佐藤大樹)だった。灰川が実子の自分を相手にせず、血縁のない子供たちばかり大事にしたことが動機だった。灰川は血のつながりというものを信じていなかった。 かつて灰川邸に住んでいた冴木の弟・瀧本蒼佑(萩原利久)も血縁を信じてなかった。それどころか冴木を憎んでいた。冴木が虐待癖のある父親から逃げて親類の家の養子になったことが背景にあった。父親の暴力は全て蒼佑に向けられるようになった。 もっとも、捕まるまいとした鈴木が冴木を短銃で撃った際、庇ったのは蒼佑だ。冴木の代わりに撃たれた蒼佑は死んだ。18日放送の第7回だった。 肉親とは何かを繰り返し問い掛けてくる。大抵のドラマが血の重みを訴えるが、このドラマのように親から酷い暴力を振るわれたり、ネグレクト(養育放棄)されたりしたら、「肉親の存在は尊い」とは簡単には言えないだろう。 同じ第7回、やはり灰川邸に住んでいた過去があり、冴木のパートナー的存在だった蓮水花音(吉川愛)が事件のキーパーソンであったことが分かる。物語はまだ二転三転するに違いない。同名原作漫画とストーリーがかなり違う。それでいて「血とは何か」という原作のメッセージは保たれている。
フジテレビ『新宿野戦病院』
(水曜午後10時) 脚本はクドカンこと宮藤官九郎氏(54)。クドカンが得意とする社会派コメディである。モチーフとなっているのは山本周五郎の名作『赤ひげ診療譚』(1958年)に違いない。山本はクドカンが敬愛する作家だ。今年、テレビ東京でドラマが放送されたクドカン作品の『季節のない街』も山本作品である。 『赤ひげ診療譚』は小石川養生所の医師・新出去定が、誰に対しても分け隔てなく懸命の医療を行った。身分や貧富によって患者を区別するようなことはなかった。 『新宿野戦病院』の主人公の1人で、元米軍医のヨウコ・ニシ・フリーマン(小池栄子)も同じ。歌舞伎町のボロ病院「聖まごころ病院」を拠点とし、どの命も等しく助けようとする。爆弾魔も老いた元ヤクザも不法滞在の外国人も。無論、金の有る無しは関係ない。 もう1人の主人公で美容皮膚科医の高峰享(仲野太賀)は、金にならない患者には見向きもしなかったが、ヨウコと過ごして変わった。高峰は『赤ひげ診療譚』の若手医師・保本登を彷彿させる。 クドカンがこのドラマで描こうとしているのは共生だろう。差別があり、格差も広まったことから、共生が難しい時代になってしまったが、クドカンはドラマの中でそれを実現させようとしている。 共生を描くから舞台が歌舞伎町なのだろう。この街には世界中、日本中から人が集まるが、誰も差別されない。上京間もない青年が、外国人がすぐに親しくなれる。名前や年齢を伏せたままでも暮らせる。 そんな土地柄だから、このドラマでも映画マニアの警察官・岡本勇太(濱田岳)、困り事相談のNPO法人に所属する・南舞 (橋本愛) 、性別不明の看護師長・堀井しのぶ(塚地武雄)らが違和感なく混在している。どんな顔合わせもあり得るのが歌舞伎町だ。 そんな街を象徴するのがヨウコである。エネルギッシュである一方、英語と岡山弁をちゃんぽんで使う。歌舞伎町の持つ熱気と多様性を表している。