【厩舎のカタチ】厩舎の行く末を決めた出会い ~友道康夫調教師~
調教師としての大切な仕事とは
前川助手=ドウデュースだけでなく、スタッフの言葉を借りれば「みんなにチャンスがあると思える」のだそうだ。開業初期から友道厩舎を支える山田正和調教助手も今年、皐月賞(ジャスティンミラノ)で初のGⅠ制覇を遂げた。一方で、師は馬主の期待馬が、友道厩舎の門をくぐるよう、チャンスを創り出すことが求められる。そのことを教えてくれたのは、橋口弘次郎元調教師である。 坂路コースを見下ろせるスタンド、通称〝坂路小屋〟。並んで調教を見ていた橋口さんから、開業間もない頃、問いかけられた。 ――調教師の仕事で一番大切なことは何か、分かるか。 答えに窮する新米調教師に、こう説いたという。 「調教師の仕事は、厩舎のスタッフが馬を検疫厩舎に初めて迎えに行ったときに、〝すごい馬が来た〟と思わせること」 今、その言葉を知ってか知らずか、スタッフ達から同じ言葉を耳にする。「これだけ馬を集められるのがすごい」と。「馬のため、オーナーのためももちろんですが、この人のために頑張りたい」と語る者もいる。 だから、その循環を続けていかねばならないという認識を、師もスタッフも有する。花が永遠に、同じ場所で咲き続けることはできないように、競馬界の華・ドウデュースの競走馬としての時間もあとわずか。花道へ向けて、そして次世代へ向けて、戦いは連綿と続いているのだ。 絵になりましたね――。 こちらから投げかけると、自分で言うのも…と前置きしたうえで、しみじみと師は口にした。 「ウチには連戦連勝の馬はいないけど、その分、ドラマがあるよ」 アドマイヤジュピタにマーズ、ヴィルシーナ、マカヒキ、ジャスティンミラノ、そしてドウデュース…。 次にチームで咲かせる花は、私たちにどんな情を抱かせてくれるだろうか。 【プロフィール】 友道康夫(ともみち・やすお)1963年8月11日生まれ、兵庫県出身。浅見国一厩舎、松田国英厩舎の厩務員、調教助手を経て、2001年に調教師免許を取得。02年11月に厩舎を開業。日本ダービー3勝をはじめ、JRA通算5121戦755勝(うち重賞69勝、GⅠ20勝。JRAのみ。11月10日終了時点、以下同)。このほか、海外でもドバイ、香港でGⅠを制している。18年にはJRA賞最多賞金獲得調教師、20年には同最高勝率調教師を受賞。今年は、リーディング(JRA賞最多勝利調教師)で2位につけている。「出走回数が少ないうちの厩舎では、一番縁遠い賞。ただ、ちょっと前に比べれば増えてきたからね(笑い)」
和田 慎司