障害物や歩行者を回避しながら、視覚障害者をナビゲートするロボット「AIスーツケース」ってどんなもの?
まちの中で見かけても、温かく見守ってもらいたい
――「AIスーツケース」のお話を伺った時、盲導犬の代わりになるのかなと感じました。 高木:いえ、明確に異なる点があります。 盲導犬は容易に段差を登ることができるなど、移動能力が素晴らしい。「AIスーツケース」には限界があります。厳密に言うと、段差を登らせることもできると思いますが、特殊な機構が必要なので、実用化が遠のいてしまうんです。そのため、現状では段差には対応しないと割り切っています。 また、盲導犬はすでに社会で活用されているため、社会における立ち位置が確立されています。その上、動物ならではの感覚も備えており、AIにはない危険予知能力も優れているといえるかもしれません。 一方、「AIスーツケース」ならではの特徴として挙げられるのが、言葉を理解できることでしょう。目的地を伝えれば、それを認識しナビゲートしてくれ、到着も知らせてくれる。これは「AIスーツケース」における非常に大きなアドバンテージだと思います。 なので、「AIスーツケース」が盲導犬に置き換わるのではなく、盲導犬は盲導犬として存在したままで、彼らには難しいことをできるようにする。盲導犬が切り開いた道を、さらに拡張するような存在になりたいと考えています。 ――「AIスーツケース」によって視覚障害者の方々の選択肢や可能性が大きく広がるように感じます。それを期待しつつ、では私たち一人一人には何ができるのかも考えなければいけないようにも思います。 高木:そうですね。私は浅川と出会い、一緒に研究を進めるようになってから初めて視覚障害というものに触れました。 晴眼者と同じように日常生活を送り、仕事もできる。でも、その中に困難なこともあるわけです。初めての場所には出掛けづらいとか、レストランのメニューが読めないとか……。当事者である浅川に出会って、いろいろなことに気付いていきました。 視覚障害者と接したことがない人にとっては、なかなかイメージしづらいこともあると思いますが、もしもまちの中で困っている当事者を見かけたら、遠慮をせずに声をかけてサポートをしていただきたいと思います。 それと、新しい技術を怖がらないで受け入れてほしいとも思います。この先、「AIスーツケース」のような新しいツールが登場し、まちの中で実際に動いているところを見かける機会も増えるでしょう。そのときには温かく見守ってもらいたいんです。 私たちも安全第一で開発していますし、皆さんの理解を集めながら社会実装していきたいと思っていますので。 社会に受け入れられるということは、皆さん一人一人に受け入れてもらうことなんですよね。そこをご理解いただけると、開発者としてはとても嬉しいです。