TikTokで流行の「#ストリートスナップ」は“写真表現の未来”となるか
◇アマチュアリズム全盛時代の「シリアスな写真」の居場所 写真史の観点で言えば、やはり携帯電話の中にカメラが仕込まれた変革期を経て、スマートフォンで撮影したものを即座に他者と共有できるような条件が揃っていることも補足しておくべきでしょう。自動補正の技術はたえまなく進化しており、アマチュアが撮影した熟練が要らずに習得できる、「質の高い」画像を公開するハードルは著しく下がっています。 それがテクノロジー使用の民主化である点では、素晴らしく、どこまでも肯定されるべきですが、他方で「シリアスな写真」の表現者たちは苦境に陥っています。スナップ写真は歴史的に手ブレやピンボケといったアマチュア的特性をある意味での「美しさ」として肯定してきましたから、アマチュア写真との線引きはこれまで以上に複雑な問題になっていきます。 私の考えでは、そうしたアマチュアリズムを組み入れた写真の美学と、TikTokの「#ストリートスナップ」の価値観は根本で異なっていますが、いずれにせよ、膨大な量の画像が蔓延するSNSでは、もはやTikTok的な動画、あるいは動画の「ネタ」として使用されるような、下位のカテゴリーでしか「かつて写真と呼ばれたもの」が表現されなくなる可能性も皆無とは言い切れません。 今日の社会状況として、路上での窃視的な写真撮影はますます困難を極めていくことに変わりはないでしょう。そのなかにあって、TikTokに見られる新たな様式は「シリアスな写真」と交雑していくのか、あるいは徹底した棲み分けがはかられるのか。 20世紀まで写真に要請されていた速報性は、そのほとんどが動画メディアへと移行しました。現代における「シリアスな写真」は、その撮影と公開の時間差・遅延性をむしろ肯定的に解釈して、記録したものを写真集という形式で時間をかけてまとめていく、ある意味では愚直とも言える、試行錯誤と迂回を連ねる戦略に望みを託すべきなのではないか。それを私は肯定したいと思っています。
倉石 信乃(明治大学 理工学部 教授)