半導体人材、九州の産学官が育成本格化 不足懸念強く、学生は熱視線
半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)が工場を建て、関連企業の集積が進む九州で、産学官が半導体人材の育成に本格的に乗り出した。専門知識を備えた働き手が不足する懸念が強いため。一方学生は熱い視線を送っている。(共同通信=小松陸) 「半導体デバイスは生活を劇的に変化させた。経済安全保障上の戦略物資と言われるようになった」。熊本大が工学部に今春導入した「半導体デバイス工学課程」の授業で、百瀬健(ももせ・たけし)教授が解説していた。技術者育成を目指すこの課程は半導体について網羅的に学ぶ。 百瀬教授は、業界には半導体の製造や設計に加え、製造装置といった幅広い就職先があると説明。課程に在籍する河合悠理(かわい・ゆうり)さん(20)は「半導体分野はこれからも伸びる。設計会社が増えており、私もやりたい」と意気込んだ。 熊本大は4月、半導体やデータサイエンスに関する人材を育てる学部相当の「情報融合学環」も設立。新設は1949年の大学発足以来で、前期日程の倍率は全学部平均の2.4倍を上回る3.8倍だった。来春には大学院自然科学教育部に「半導体・情報数理専攻」も置く。
背景にはTSMCが呼び寄せた専門人材の需要増加がある。県によると、同社が熊本進出を発表した2021年11月~2024年3月に県と協定を結んで立地を決めた半導体関連企業は48社。雇用予定数は計約1800人に上る。リクルートによると、九州・沖縄の半導体関連エンジニアの2023年度求人倍率は、2017年度比6.1倍に拡大した。 産学官でつくる「九州半導体人材育成等コンソーシアム」は2023年、九州の半導体産業は今後10年間にわたって年千人程度の人材が足りないと試算。その後、TSMCは1700人を雇用予定の第2工場建設を公表し、不足感は強まっている。 育成の動きは広がる。長崎大は2023年11月に「マイクロデバイス総合研究センター」を設けた。長崎県諫早市に画像センサー用の工場を持つソニーグループなどと大学院生への講義を行う。 電子部品大手ロームが2024年末にパワー半導体の新工場の稼働を予定する宮崎県では、宮崎大が2025年度、工学部に新課程「半導体サイエンスプログラム」をつくる。九州各地の高専も積極的に半導体向け授業を展開する。
福岡県は2023年8月、社会人向けに講座を提供する「福岡半導体リスキリングセンター」を開設。1年弱で延べ6800人超が受講した。 TSMCは、2024年3月、4月に熊本大と九州大と技術者育成や研究の連携協定をそれぞれと締結。今夏には台湾でのインターンシップを企画。張孟凡(ちょう・もうはん)技術研究ディレクターは「日本の人材育成でも主導的な役割を果たしたい」と語った。