JAXA公開の衛星データから能登半島地震を調査(前編) - データを整理し被害を可視化
この斜め観測に特有のエラーがある。電波が斜めにあたることから、山が壁となって山の後ろ側に電波が当たらず、情報が得ることができない現象を「レーダーシャドウ」と呼ぶ。また、高い建物や山頂が衛星から近い距離にあると判断され、倒れこんで見える現象を「レイオーバー」と呼ぶ。レイオーバーは山だけでなく高い塔などの建物でも発生し、実際には存在しないゴーストのようなものが画像に映っている。SARには見えていない(情報を読み取ることができない)場所がある、と考えてもらえばいいだろう。
そのほかにも、建物が混み合った都市部では電波の反射が複雑になって浸水の判読が難しい、水田に水を張られている時期とそうでない時期を比べると水のあるなしを“変化”ととらえてしまい解釈に誤りが生じる、などといったSAR特有の難しさがある。また夜間・悪天候に強いとはいえSARは万能ではなく、常に「見落とし(偽陰性)」、「見えすぎ(偽陽性)」の可能性をはらんでいる。災害対応で利用する際は、常にその可能性を念頭に置いて、被害状況を把握するための手がかりのひとつ、と考えたほうがよい。多くの人がSARデータを使って地域の状況を調査すれば、とくに対象となる土地をよく知る人が見れば、情報が積み重なることで役に立つものになっていく。SARの長所短所を理解した上で、訓練を積んでいこう。 ■データを準備する まずは、ALOS-2観測データを準備しよう。JAXA Webサイトの「JAXA ALOS-2 / PALSAR-2 観測プロダクト 災害関連データの無償公開『令和6年(2024年)能登半島地震』」から、JAXA令和6年(2024年)能登半島地震 ALOS-2データをダウンロードする。ここにあるSARデータは、受信した状態の生のデータから、扱いやすい単位に切り取る、目で見て判読できる画像化するといった処理が何段階も行われている。処理の段階は「L*.*」のようにLと数字で表されており、数字が大きくなるほど高次処理が行われた、いわば“下ごしらえ済み”の状態になっていくといえる。 能登半島地震のデータ公開の場合は、JAXAは「L1.1」と「L2.1」の2種類を公開している。解析を行う際には、画像を真上から見たようにする「オルソ補正」といった処理が必要になるため、オルソ補正済みの「L2.1」データを利用する。L1.1の利用には専用のデータ処理ツールや基礎知識が必要となり、これだけで処理の時間や手間が必要となるので、まずはプロが下ごしらえをすませたデータで解析の訓練をしよう。