「思い出が空間記録される可能性」を夢想する(西田宗千佳)
個人の思い出を記録する方法は、写真から動画へと変化してきた。アナログ記録からデジタル記録へと変わったものの、その先はまだ定着しているとはいえない。 フォトグラメトリによる3D記録 ひとつの予想として、そこで「3D記録」が一般化するというものがある。筆者もその可能性が高いと思っているし、その結果として、非常に大きな市場ができると予測している。 一方、3Dといっても手法はいくつもあるし、今はまだ(おそらく今後数年は)一般化のための要素が欠けたままであり、まだ普及しないと思っている。 では、どうなると普及し、普及の過程ではどういう変化が生まれる可能性があるのだろうか。そのことを予測、というか妄想してみたい。
思い出を「カジュアル」かつ「リッチ」に残す
思い出をさらにリッチに記録する、というのはごく自然な発想だ。静止画・動画と変化してきたのもその流れの中にあるものだし、高画質化も同様だ。 いわゆる2Dでの静止画・動画も十分にリッチであり、作品性の追求は止まらないだろう。だから、今後もメインがそちらであることに疑いはない。 一方で、家族の記録などを中心とした「カジュアルなスナップ」では、画質以外の要素が必要にもなってくる。それらが「作品を作る」以上に「思い出を残す」「思い出を伝える」価値を持つ以上、3Dを含めたリッチな記録は相性が良い。業務用途はともかく、カジュアルな記録ほどリッチな情報記録と相性がいい、というのが筆者の想定である。今回の記事では特に「スナップの高度化」という視線で考えていきたい。 スナップの高度化とは、その場をリアルに、豊かな情報量で記録すること、と定義できる。
リッチな思い出記録技術とは
だとすれば、方法はいくつもある。 例えば、魚眼レンズなどを使って画角をより広くし、180度もしくは360度の映像やパノラマ映像を記録するのもその1つの形である。 同様に、2つのレンズで左右の目が捉える映像を記録する「ステレオペア記録」もある。 そして、もっとも新しい手法は、様々な技術を使って空間の立体構造自体を記録する方法だ。写真から3Dデータを作る「フォトグラメトリ」などがこれにあたる。 いわゆる「立体的」な映像になるのは後者2つであるので、今回の主題に沿うのはそちらということになるのだが、よりリッチな映像記録、という意味でパノラマ系も加えておく。 また、スマートフォンで撮影した写真などに背景ボケをソフト的に追加したり、写真のピントを後で変更できたりする、俗に「ポートレート撮影」と呼ばれるものも、実は立体記録のひとつと言える。写真からなんらかの手法で深度情報を生み出し、それに合わせてボケやピント変更を可能にするものだからだ。この技術を使うと、2D画像として撮影した写真を立体的な表現に変えることもできる。