裁判官、東証職員…相次ぐ「市場の番人」のインサイダー疑惑 「監視を強めるべき」
金融庁に出向中の裁判官が、限られた職員しか見ることのできないTOB(株式公開買い付け)情報を悪用してインサイダー取引をしていた疑いが浮上した。10月には東京証券取引所の職員によるインサイダー取引疑惑も発覚。株式市場がバブル経済期を上回る活況に沸く中、ともに企業の未公開情報を扱う「市場の番人」に持ち上がった疑惑だけに関係者の衝撃は大きく、「監視を強めるべきだ」との指摘が出ている。 ■高い専門性 「専門性が求められるTOB審査だからこそ、裁判官や弁護士出身者を中心に進めていたのに」 金融庁関係者は、同庁企業開示課に出向していた30代裁判官によるインサイダー取引疑惑にあきれた様子で語った。 TOBは購入する株の価格などを公表して企業を買収する手法で、関連銘柄は公表後、大きく値を上げるのが通例だ。それだけに透明性、公正性の確保は必須の条件で、情報公開はその肝となる。TOBの際に公開すべき情報の内容を判断するには法的な知識が必要で、同課では裁判官や弁護士出身者が重宝されていたという。 ■増加傾向 株取引の裾野は広がっている。1月には、投資金額などが拡充された新NISA(少額投資非課税制度)が始まった。日本証券業協会によると、今年6月末時点でNISA口座は昨年末から300万口座以上増加した。また、バブル超えとも目される市場の活況は、その広がりを後押ししているといえる。 並行するように、その暗部も見え隠れするようになった。近時、インサイダー取引が疑われる事例は増加傾向にある。 証券取引等監視委員会には、インサイダー取引が疑われる不審な情報が、東証が属する日本取引所グループや証券会社から日々提供される仕組みになっている。 こうした記録を取り寄せて監視委が違法性の有無などを分析するのが「取引審査」だ。件数は、令和5年に1147件と、元年の976件から2割弱増加した。 ■氷山の一角 ただ、取引審査が増加する一方、監視委が行政罰である課徴金を課したのはごく一部にとどまり、4年度が8件、5年度が13件。刑事罰を念頭に刑事告発した数はさらに少なく、4年度は7件、5年度は1件に過ぎない。
監視委OBで公認会計士の野村宜弘氏は「裁判官や東証職員がなぜバレないと思ったか不思議だ」とする一方、「刑事告発に至るのは氷山の一角」と指摘、不正取引の多くが見逃されている可能性を示唆する。野村氏は「行政罰の課徴金を積極活用し、市場の監視を強めるべきだ」としている。(桑波田仰太、久原昂也、星直人)