「ちょっといいか」新大関・大の里が師匠から呼び出されて受けた「大関の訓示」とは? 2度目の優勝の夜、恩師にかけた“ある依頼”の電話
初土俵から所要9場所という驚異のスピード昇進を果たした新大関・大の里。その成長の背景には、相撲道を追究し続ける師匠の貴重な教えと期待、類稀な素質を見抜いた恩師の眼差し、父の大きな背中があった──。 発売中のNumber1108号に掲載の[新大関誕生ドキュメント]大の里「前へ、前へ」より内容を一部抜粋してお届けします。 【秘蔵写真】「力士なのに腹筋がエグい…」「昔はガリガリだったのに」千代の富士の彫刻のような肉体美やカッコよすぎる土俵入り、地元でリラックスする貴重な姿をまとめて見る(45枚超)
「大関とは」の訓示
大相撲秋場所が幕を閉じて2日後の9月24日、茨城県阿見町の二所ノ関部屋では間もなく誕生する新大関を中心に着々と準備が進められていた。東京・両国国技館とは約50km離れ、JR常磐線のひたち野うしく駅から徒歩10分程度。6000平方mにも及ぶ広大な敷地内に構える緑色の屋根の建物の中で、翌朝に実施される昇進伝達式のリハーサルが行われた。 午後6時を過ぎた頃、本番と同じ場所に置いた金屏風の前で大の里が師匠の二所ノ関親方(元横綱稀勢の里)、おかみさんと並んで座る。向かい側には日本相撲協会の使者役を務める力士が2人。まだ普段着の主役は完成したばかりの口上を述べ、来賓との記念撮影を兼ねた乾杯に至るまで一連の動きを確認した。舞台は整った。 じわじわと漂い始めた高揚感を鎮めるかのように、小さな声が響いた。 「ちょっといいか」 師匠が大の里を呼び、正面から向かって左側奥にある事務所へと入っていった。二人だけの空間で、応接のソファーに向かい合って座る。「大関とは」の訓示だった。
師匠から示された高いハードル
相撲協会の規定にはないものの、大関は直近3場所合計33勝が昇進の目安とされている。一方で横綱は大関として2場所連続優勝やそれに準ずる好成績といった数字を前提としつつ、品格など内面から醸し出されるものが背中を押す。当該力士の足跡や生き方が、時として数字以上のインパクトをもたらすこともある。初優勝と同時に最高位の座をつかんだ稀勢の里がそうだった。二所ノ関親方は自らの経験を踏まえながら伝えた。 「横綱という地位は、相撲を追究して勉強した人がなれるものだ。選ばれし者が綱を締める。綱を締めるということは日本の伝統を背負うということだ。その選ばれし者になるためには、どうすればいいか。大関に上がって、そういう人間になるためには何をするべきなのか。追究するしかない」 どんな大関になるべきなのか。求められる大関像を飛び越えて、テーマは早くも番付の頂点を見据えたものとなった。大関を「守る」のではなく、横綱に向かって「攻める」。初土俵から所要9場所での最速昇進(昭和以降)をやってのけた弟子に対し、師匠はいきなり高いハードルを設けた。この夜が明ければ大関となる新星の全身に緊張感が駆け巡った。 「そういうところに自分は上がるんだなと感じた。これは今まで通りのやり方では駄目なんだなと。力士になってふわふわしていたところもあったけど、親方のあの言葉で気持ちがより一層引き締まった」 覚悟が固まった。 「相撲をもっと学び、勉強していく。上へ上へと頑張っていく。壁にぶつかるかもしれないけど、もう立ち向かっていく」 9月25日。午前9時すぎに相撲協会の九州場所番付編成会議と臨時理事会で大関昇進が満場一致で決まった。両国国技館を出発した使者が1時間程度で二所ノ関部屋へ到着すると、紋付き袴をびしっと着た大の里は注目の口上を力強く披露した。 「大関の地位を汚さぬよう、唯一無二の力士を目指し、相撲道に精進します」 晴れがましい席上で、何とも気宇壮大な四字熟語が飛び出した。「他に並ぶものがないほど突き抜けている」との意味の言葉を選んだ。雄姿を見届けた両親や妹、部屋関係者らとの乾杯から、大きくて立派な鯛を左右の手で1尾ずつ持って記念撮影。魚たちは日の出の勢いのスター候補を祝うかのごとく、瑞々しい光沢を反射させた。記者会見で「唯一無二」のイメージを問われると「他に類を見ない。もうこのような人は現れないというくらいのお相撲さんになりたい」と堂々と言い切った。
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